サステイナブルな旅を考える 求められる送客側の意識改革

2021.09.13 00:00

(C)iStock.com/kerrick

多くの国がコロナ禍明けの海外旅行者受け入れを待ち望んでいる。しかし、再開を視野に入れたプロモーションには以前とは違いが見られる。それはサステイナブルな旅に軸足が置かれていることだ。受け入れ側のこのメッセージに送り手側はどう呼応するのか。

 コロナ禍を境に、将来にわたって地域社会や経済、環境への影響を十分に考慮する持続可能性(サステイナビリティー)を意識した事業計画やサービスがよりいっそう打ち出されるようになってきた。国連が15年に採択した持続可能な開発目標(SDGs)は誰もが知るところだが、コロナ禍で多くの事業が足止めを食らい見直しを余儀なくされたなかでも、SDGsの取り組みは歩みを止めていないどころか、加速している。

 ツーリズム業界は依然として多くの国境が閉ざされたままで国際的な往来の本格再開に至っていないが、再開を見据えた主要デスティネーションの誘致計画にはサステイナブルな旅を前提とする動きが見られる。牽引するのは、気候変動問題に積極的に取り組む国々だ。

 ドイツ観光局は7月、「FEEL GOOD」と銘打ち、サステイナブルトラベルを推進する新たなキャンペーンを開始した。環境への負荷を考慮して長期滞在や鉄道を使った移動を促し、環境を保護しながら旅するヒントを提案する。専用ウェブサイトには、フライトなどで排出したCO2を計算できる機能まで備え、旅行者の意識と行動に訴えている。コロナ禍を経験し、サステイナビリティーを考慮する旅を支持する人々が増える流れを読んだ。

 フランス観光開発機構は他の主要な仏観光団体とともに、より責任ある持続的な観光について取り組むべき課題とその解決に向けた行動案を国内外の一般市民に公募し、10のアイデアを公表した。仏政府は夏のバカンスシーズン明けをめどに観光需要回復計画を発表する予定で、それに反映される見通し。観光業界の再起に向けては、サステイナビリティーや責任などの問題に配慮していることを国内外にアピールすることが重要と判断したためだ。

 かねてから観光指標に住民満足度を盛り込んでいるハワイ州観光局は、コロナ下で持続可能な観光を本格始動させた。それぞれの島が地域社会とともに観光戦略を立案する取り組みへと進化している。グアム政府観光局はビーチの美しさを保ちサンゴ礁を保護するため、マリンツアーオペレーター認定プログラムを新たに導入した。

 新型コロナウイルスが流行する前、世界の観光地はオーバーツーリズム問題に揺れていた。ゴミや騒音に悩まされてきた人気観光地では、観光客数を抑制する規制が立ち上がった。コロナ禍で人々の往来が途絶えると、地域は平穏と自然の美しさを取り戻した。再び旅行が再開されるに当たり、受け入れ地域と観光当局がサステイナビリティーをより強く意識するのは当然の帰結といえる。

 こうした流れを送り手となる旅行会社はどこまで受け止めているのだろうか。欧州諸国などと比べ、日本のサステイナビリティーへの取り組みは総じて後れを取っている。それは観光産業で顕著だ。立教大学観光学部とJTB総合研究所が全国の企業に実施したSDGsへの取り組み状況調査によると、業種別で「SDGsに取り組んでいる」との回答が最も高かったのは金融・保険業の85.7%で、観光業(宿泊業・旅行業)は最低の20.3%と極めて不名誉な結果となった。なかでも旅行業は16.0%といっそう低い。取り組むことで収益増や取引先の増加を期待する事業者が多く、ブランド力の向上などを重視する他産業との違いは明らか。日本人旅行者の受け入れに意欲を示す主要デスティネーションが示す方向性とは、大きな隔たりが生じていることになる。

海外旅行の再開急ぐその時に

 この現状にJATA(日本旅行業協会)の菊間潤吾会長(ワールド航空サービス代表取締役会長)は強い危機感を示す。「これまで送り手は自分たちの論理でやってきたが、消費者の感性も現地の受け入れ先も変化している。送り手の論理が通用する時代ではなくなった」

【続きは週刊トラベルジャーナル21年9月13日号で】

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