『たまごの旅人』 海外添乗を描いた共感必至の連作短編集
2021.09.13 00:00
初めて降りた乗り継ぎ空港で、時間がないからと参加者を急がせ搭乗ゲートまで行ったら人が多くて座る席がない。オーロラを見に行ったツアーで悪天候が続き参加者が無口になっていく。レストランで食事中、急に参加者の1人が差別的なことを言い始める。
あるあるー(or あったあったー)。
出てくるエピソードの数々に、添乗員経験者なら全員、首がもげるほどうなずいてしまうはず。
本書は旅好きでもある著者が、添乗員を主人公に旅を描いた連作短編集だ。
旅の仕事にあこがれ海外添乗員になった遙は、初添乗でいきなりアイスランド行きが決まり、なんとか下調べを間に合わせたものの数々のトラブルや緊張でヘトヘト。それでも次はクロアチアとスロベニア、パリ、そして西安、北京と添乗仕事は続き、毎回悩みは尽きないが、異国の風景や人との出会い、参加者の思いや特別な瞬間に触れることで、少しずつ前に進んでいく。
読みながら思い出したが、自分が添乗員をやって痛感したのは、「旅に出るのは100人100通りの理由がある」。たまたま同じツアーで居合わせたいろんな事情の人々の旅を添乗員は邪魔しちゃいけない(しかしワガママな貴様は許さん)ってこと。なので遙の戸惑いには共感しかない。そして驚くのが、各エピソードが「なんで知ってるんですか」と著者を問い詰めたいくらいリアルなこと。毎回ちょっとした謎解きもあり、楽しく読めること請け合い。
最後の一篇では、コロナ禍も描かれる。仕事がなくなった遙が選ぶ道はどこに続くのか。現実世界でも知人の添乗員たちが業界を去ったのを見てきただけに、悩む遙の姿に共感し、ほろりとさせられる。たまごの旅人が、一人前に羽ばたける日が早く来ますように。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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