英国で流行するホームスワップ

2021.08.30 00:00

 英フィナンシャルタイムズ(FT)は、希望者間で自宅(別荘を含む)を交換して一定期間利用するホームスワップのブームを伝えている。パンデミックによる海外旅行の制限が流行の一因だが、ホームスワップ自体は昔からある旅行形態だ。

 現在増えているホームスワップは国内の短期滞在が主流だ。当然ながら滞在先として人気の土地に自宅を所有する人、特に風光明媚な立地に邸宅を持つ人の間でのスワップが多い。英国の需要増加は諸外国より顕著で、3月には前月より契約者は31%増え、最近の数週間で19年の数字を超えた。市場調査会社の推計ではパンデミック前の世界のホームスワップ市場は47億ドルだった。

 専門業者のプラットフォームは、自宅を交換する相手を探す人々のために利用できる物件リストとその料金などの情報を提供する。無料サイトもあるが、専門業者は自宅所有者が登録する会員制のサブスクリプションサービスで会費を徴収する。最大手のホームエクスチェンジは年会費150ドル、インターバックは月額8.33ドルで最も安い。

 ホームエクスチェンジは全世界で45万件(人)の登録がある。17年にフランスの企業がライバルの米ホームエクスチェンジを買収して設立された。事業コンセプトは1950年代の欧州で海外の会議に出席する際に自宅をスワップする学者のネットワークとして始まった。インターネット以前は郵便や電話でアレンジされた。

 専門業者はスワップする物件情報をウェブサイトで提供すること以外、当事者間の契約プロセスに介入しない。利用者は業者が提供する情報により手軽に利用できるが、満足度を高めるにはスワップについて利用者双方が理解する必要がある。スワップは利用者の相互信頼がベースになるので、専門業者は交換相手の個人的情報をメールなどで詳細に聞き出すよう会員に助言している。

 中にはホームスワップの本質を踏まえ、ビジネスに走り過ぎないことを経営の基本とする業者もいる。例えば、物件の価値を家の広さや近隣住宅価格を基準に料金を決めることに反対する。利用者は時間的に余裕のある退職者が多いが、ホームスワップの認知度が広がったことで家族単位の申し込みが増えている。家族構成が似た物件を見つけることで、玩具やベビーシッターなど自分のニーズによりふさわしい物件が見つかる。

 ホームスワップが急増する背景には、長期間違う場所で働きたい人々によるリモートワークの増加や、移住して新しい生活を体験したいという都市住民が増えたこともある。その土地で住民のように生活して、自由な環境を楽しむことができる。商業的な宿泊施設よりも私的な生活中心の滞在ができ、他のレンタル物件より安いことなども利点として挙げられる。

 これはエアビーアンドビーによるバケーションレンタルから始まったシェアリングエコノミーの一形態だが、遊休資産の収益化が目的ではない。自宅を見知らぬ他人に利用させるには多少のリスクを受け入れなければならないだろう。自宅を汚されたり破損されたり、貴重品がなくなることを心配する人には、留守中に生じた資産の毀損をカバーする保険がある。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

関連キーワード