グリスロで地域の観光 ラストワンマイル支える小さな移動サービス

2021.08.16 00:00

(C)iStock.com/RichLegg

グリーンスローモビリティを導入する地域が増えている。低速・小型の電動車を地域交通の一角に位置付ける取り組みで、地域住民の移動手段としてだけでなく、観光地の二次交通手段としても有望視される。カーボンニュートラル実現の一環として国も導入を積極的に後押しする。

 グリーンスローモビリティは地域交通の救世主として期待される移動手段で、通称の「グリスロ」で呼ばれることも多い。車両はゴルフカートを思い浮かべるのが一番分かりやすいが、きちんとした定義がある。第1にグリーン、つまり環境に優しくなければならず電気自動車(EV)であること。第2に低速運行で時速20km未満が条件だ。速度を制限することで生活道路での運行安全性を確保し、乗客が景観を楽しめることも重視する。

 第3に道路環境への負担を抑えて走行できるよう比較的小型であること。ただし個人用の移動手段ではないため乗車定員は4人以上。現在、活用されるのは少人数向けゴルフカートタイプ車両と、10人以上乗車できるコミュニティビークルだ。車両の種類は4人乗車の軽自動車、7人まで乗車の小型自動車、10人以上乗車の普通自動車があるが、同じ乗車人数の通常車両と比較した場合、車両サイズが小さい。もちろん公道の走行を前提としている。

 一般的にグリーンスローモビリティといえば、運行形態や運行システムを含めた地域交通体系全体を示すことが多い。

 グリスロは2つの理由から国が積極的に推進している。1つは少子高齢化が進む地域において地域内交通を確保するため。経済的要因から公共交通の維持が難しくなる地域においては自家用車に頼らざるを得ない状況があり、他の選択肢がほとんどない。この環境を変えていく必要がある。同時に地域経済活性化を実現する有効な手段である観光の活性化にも、新たなモビリティによる2次交通手段の整備が求められているからだ。

 もう1つが環境政策の一環としてのカーボンニュートラル施策という位置づけだ。15年に採択されたパリ協定に基づき、21世紀後半には温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標が国際的に共有されている。政府もこうした国際的な枠組みのなかで、昨年10月に「2050カーボンニュートラル」を宣言。温室効果ガスを大量に排出する既存の交通機関に代わって、新たにグリーンモビリティを実現していく必要がある。その意味でグリスロは政府の「グリーン成長戦略」(20年12月策定)にも合致する。

政府を挙げて導入を促進

 政府は25年度を目途とする第2次交通政策基本計画を5月に閣議決定した。同計画では日本の地域交通が危機に直面しているとの認識を示し、グリスロ等の新たなモビリティサービスの導入を促進するとの方針を明示。グリスロを含む新たなモビリティサービスに取り組む地方自治体を20年の197から、25年には700に引き上げる目標も掲げている。

 こうした国の方針に沿って国土交通省は18年度にグリーンスローモビリティの活用検討に向けた実証調査支援事業を開始し、18年度に5地域、19年度に7地域、20年度に6地域を選定。これまでに計18地域の実証調査事業を支援している。これとは別に環境省との連携事業として19年度にIoT技術等を活用したグリーンスローモビリティの効果的導入実証事業として7地域を選定。21年度は脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業のうちの地域の脱炭素交通モデル構築支援事業としてグリーンスローモビリティの導入実証・促進事業を実施している。

 グリスロの導入に活用できる補助金・交付金等も関係省庁が数多く用意している。たとえば実証調査や車両購入等で活用できる可能性があるものとして、国交省のスマートシティモデルプロジェクトや日本版MaaS推進・支援事業、経済産業省の無人自動運転等の先進MaaS実装加速化推進事業、内閣府の未来技術社会実装事業などがあり、グリスロ促進は政府を挙げて取り組む事業となっている。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年8月16・23日号で】

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