米国のクルーズ再開が本格化

2021.08.09 00:00

 米疾病対策センター(CDC)は昨年10月、1年に及ぶ大型クルーズ船のコロナ対応の運航停止令を解除し、条件付き運航指令を通達し、正式クルーズ再開以前に防止対策を整備したテスト航海を指示した。ところが、その後CDCから具体的指示はなく、3月のトラベルウイークリー(TW)は関係業界、州知事、議員などからCDCの沈黙への不満と批判が高まったと伝えていた。4月にはフロリダ州知事が、CDCは確たるデータもなくフロリダの主要産業を長期に止める権利はないと連邦政府へ提訴した。

 4月末、CDC はようやく、クルーズ業界に新たなガイドラインを提示した。クルーズの正式再開予定を7月半ばとし、テスト航海に加え、クルーの98%、乗客の95%がワクチン接種を完了していればテスト航海が免除される。さらにテスト航海の審査期間を60日から5日に短縮。6月初めには8隻のテスト航海と2隻のテスト航海なしでの運航を認めた。

 6月18日にはフロリダ州提訴でフロリダ側の完全な勝利が決定され、CDCの運航禁止令は無効となった。裁判官の裁定根拠は、CDC指令では感染に関するワクチン効果が考慮されていないこと、ホテル、航空等関連する他の分野に対する支援措置との整合性、欧州での感染のない多くのクルーズ事例の3点であった。裁定は司法の多くの専門家の予測を覆すもので驚きをもって迎えられた。

 直後の6月20日~22日、ロイヤル・カリビアンのフリーダム・オブ・ザ・シーズはコロナ規制以来初のマイアミ往復テスト航海を、同社社員600人がボランティアとして乗船し実施した。より面倒なテスト航海を選んだ理由は同社クルーズ船客の10%が現在ワクチン接種できない12歳以下であるからと説明している。また、セレブリティクルーズの大型船セレブリティ・エッジは、接種率99%の1600人の有料船客を乗せて、テスト航海なしに15カ月ぶりに米国クルーズとして6月26日、フォートローダーデールを出港した。ようやく米国クルーズ再開が本格化した印象である。

 もう1つの懸案であったカナダ政府によるアラスカクルーズ禁止令への対応策として、同州選出上院議員が連邦議会に求めていた、1886年制定の船客サービス法(PVSA)が定める外国船籍船のカナダへの寄港義務を一時的に免除する例外措置が5月13日に認められ、24日に大統領が署名した。専門家は経済的理由によりたとえ一時的でも適用除外はあり得ないと予測していたので想定外の決定となり、アラスカクルーズがよみがえった。

 PVSAは米国海運業を外国との競合から保護する目的の沿岸航路(カボタージュ)規制だが、今回争点となった背景には米国クルーズ会社の90%が米国外の便宜船籍である事実がある。パナマ、バーミューダなど外国船籍ではクルーの人件費、修理、保険、そして何より関連する租税で米国船籍より大幅な経費節減が可能だ。その上、米国船籍は米国内での造船が条件となる。コロナ禍で政府の航空やホテルなどへの援助支援に比べ、クルーズへの配慮が置き去りにされているのは税逃れしているから当然という議員などの批判がある。しかし、クルーズ経営の基本構造ともいえる外国船籍方式が早晩変わることはないという推測が一般的なようだ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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