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消える近距離航空路線 鉄道シフトがもたらす影響

2021年8月9日 12:00 AM

(C)iStock.com/acilo

近距離の航空路線を縮小する動きが欧州で広がりを見せている。温室効果ガスを大量に排出する航空機利用を控えようという意図の反映で、気候変動など環境問題への対応策の一環だ。これと並行して、環境負荷の小さい鉄道利用へのシフトを促進する取り組みも始まっている。

 フランス国会上・下院は7月20日、気候変動対策・レジリエンスの強化法案を可決した。第36条で求める「鉄道によって2時間半未満で移動できる区間の国内線空路の運航を禁止する」との条文は22年3月27日から効力を持つことになる。この法案が5月に下院で可決された時点ですでに航空業界は対応を織り込み済みだが、一部路線とはいえ、航空移動そのものが否定されたことによる影響は長期的に航空業界の存立基盤そのものを脅かしかねない。

 ただし、航空移動の否定につながる動きは、フランスに先行する形で欧州内ですでに広がりつつある。18年にスウェーデン発の「フライトシェイム(飛び恥)」運動が欧州各国へ波及し、オーストリアは20年6月、350㎞以内の航空路線に付加税を課すとともに、鉄道で3時間以内の国内線を廃止していくことを決めた。対象には主要路線のウィーン/ザルツブルク線が含まれる。

 こういった動きは欧州における環境意識の高まり、とりわけ気候変動対策を積極的に進めていこうという政治姿勢のありようが背景にある。15年にパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、各国が温室効果ガスの排出削減の目標を定めて対策を講じることが決定。30年までに排出量を1990年比で55%削減するとの目標を打ち立てた。さらに2018年には、カーボンニュートラルな社会を実現する年限を50年までと定めた。

 このように野心的な目標を掲げる欧州では、航空移動は大きな課題の1つとなっていた。欧州内の温室効果ガス排出量全体の約3.8%を占めるとされ、このままでは排出量が増える一方だからだ。燃費が良く環境負荷の小さい機材の導入や、航空燃料のSAF(バイオジェット燃料を含む持続可能な航空燃料)への切り替えなどを進めるだけでなく、航空移動そのものを制限していくのが欧州の考え方だ。

 フランスの気候変動対策・レジリエンスの強化法案の中身も短距離国内航空路線を禁止するだけにとどまらない。運航区間の温室効果ガス排出を削減することを目指し、より直接的なルート設定による運航距離の短縮のほか、滑走路での待機時間やタクシー時間の短縮、降下手順の改善なども求められている(ただし、法律の最終原文は7月28日時点で未発表)。

譲歩で削減数を抑制

 フランスで鉄道を使って2時間半未満で移動できる区間の国内線空路に該当するのは、鉄道所要時間が1時間台のパリ/ボルドー線、リヨン線、ナント線、レンヌ線のほか、リヨン/マルセイユ線を加えた5路線で、主要路線のパリ/マルセイユ線やパリ/トゥールーズ線は含まれない。また国際線への乗り継ぎとなる国内線空路も除外される。このため、パリ=シャルル・ド・ゴール空港で国際線に接続する地域の短距離国内路線は対象外で、オルリー空港発着の短距離国内路線が削減対象となる。例外規定も多く、実際に廃止となる路線は1~3路線になるとの見方もある。

 気候変動対策・レジリエンスの強化法案は下院での審議が始まった当初、運航禁止対象路線を「鉄道により4時間未満で移動できる区間」としていた。当時、航空業界はコロナ禍に伴う航空需要の急減で経営危機に陥り、150億ユーロ(約1兆8000億円)の政府支援を受ける交換条件として短距離路線を手放すことに同意したものの、下院での修正に期待をつないだ。その結果、4時間未満を2時間半に短縮し、国際線への乗り継ぎ便を対象外にするといった巻き返しに成功。当初案では40路線近くなると見込まれた対象路線は大幅に減少した。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年8月9日号で】[1]

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル21年8月9日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2021/08/08/contents-93/