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『宿で死ぬ 旅泊ホラー傑作選』 旅を盛り上げてくれる怪談集

2021年8月9日 12:00 AM

朝宮運河編/筑摩書房刊/990円

 暑中お見舞い申し上げます!

 暑いときにはやっぱり怪談話がつきもの。ってことで、今回取り上げるのは国内外を駆け回る業界人にぴったり(?)の「宿で死ぬ」がテーマの怪談短編集。宿屋の私がおすすめするのもアレだが、なかなか充実した内容なのでご紹介させていただきたい。

 なにしろ執筆陣が豪華。遠藤周作、恩田陸、半村良、小川洋子などなど、大御所から現代の人気作家まで11編の宿ホラーが収録されている。

 怪談話の舞台といえば、ひなびた温泉宿が定番。遠藤周作の『三つの幽霊』は熱海のいやーな感じの宿で自身が体験した背筋も凍る話、福沢徹三『屍の宿』は愛人と秘湯に出かけた男の恐怖体験。旅館を舞台にした怪談短編はじめっとした怖さが効いてくる感じだ。

 一方、ホテルを舞台にした怪談話は、からりとした怖さ。恩田陸『深夜の食欲』はルームサービスを運ぶボーイが巻き込まれた怪異。半村良『ホテル暮らし』は、ホテル経営を目指した知人が死後現れ幻想の世界に誘うというお話。そして巻末の小川洋子『トマトと満月』はリゾートホテルに現れた謎の女性との触れ合いを描いた、ちょっと素敵な怪異譚、といった具合。

 宿というのは不特定多数が行き交う空間で、いかにもなにか起こりそう。古い旅館の天井のシミにきゃあきゃあ言った思い出なら誰にでもあるのではないだろうか。旅先の宿で読んだら気分も盛り上がりそうな1冊である。

 ……なんて思いながら夜、本稿を書いていたら、翌日の朝なんとワタクシ、熱中症で自宅から救急搬送されてしまった。3日間の入院で回復はしたが、帰宅後テーブルに載る本書を見て(まさかお前が……)と熱中症の温度も下がるほどひんやりしたのでした。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。