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『スマホ脳』 デジタル社会がもたらした功罪

2021年7月12日 12:00 AM

アンデシュ・ハンセン著/久山葉子訳/新潮新書/1078円

 「なんで僕にワクチン打って大丈夫ですか、と聞いてくるのか」

 フォロワー3万人を超える社会学者の友人がツイートしていたら、「若い人はテレビを信じない代わりにSNS を信じるので」とリプライされていて、眺めていた私も「なるほど」と納得。近頃はグーグル検索すら「ウソや広告が混じってる」と信用されず、若者たちはSNSで「真実」を得ようとするとか。

 だが、メディアも専門家も信じられない時代って、不安じゃないのか。

 「今あなたが手にしている本は人間の脳はデジタル社会に適応していないという内容だ」。こんな書き出しで始まる本書は、スウェーデンの精神科医がデジタル化が人間にもたらした影響を脳科学に基づき考察した1冊。本国では社会現象を巻き起こし、日本でも累計40万部を超えるヒットとなった。

 誰もがうすうす悪影響に気が付きながらスマホを手放せないのはなぜか。ジョブズはじめIT 業界のトップたちが子供にスマホを与えなかったのはなぜか。著者は人類史をひもときながら、原因は脳の構造にあると語る。敵が多く死亡率も高かった人類黎明期、ストレスホルモン(コルチゾール)や報酬物質(ドーパミン)は身を守る仕組みとして発達した。だが現代社会にはこの仕組みはフィットせず、そこにスマホが与える快楽や不安が入り込んでしまった。若者におけるうつ病患者の急増や睡眠障害なども、ここに起因するのではと著者は考察を進めていく。

 わかりやすすぎる気もするが、1つの考え方として非常に面白いし興味深く読める。ネットとの付き合い方、あらためて考えないとなあ、と実感だ(と書きつつ、スマホ関連の言葉がいっぱい出てくるので、読みながらついついSNSをチェックしてたのはナイショ)。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。