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流動するビジネストラベル M&A加速で勢力図に異変

2021年6月28日 12:00 AM

(C)iStock.com/Yuri_Arcurs

コロナ禍は法人旅行にも多大な影響を及ぼしている。商談等のオンラインでの代替が浸透し、コロナ禍前と同じ水準には需要が戻らない可能性をはらむ。そうしたなか、海外では、法人旅行を手掛ける大手と躍進目覚ましい新興企業が同業のM&A(合併・買収)を加速させている。

 マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は昨年11月、ニューヨーク・タイムズが開催したバーチャル会議で「出張は50%以上、オフィスに出社する仕事は30%以上減少する」と発言した。12月にはウォール・ストリート・ジャーナルが「パンデミックは法人旅行市場を永久に36%減少させる」という記事を掲載。コロナ禍が人々の仕事の仕方とそれに付随する法人旅行のあり方を根本から変える可能性を示唆した。

 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、パンデミック前の19年の法人旅行市場の規模は全世界で1兆2940億ドルに上る。世界的な好景気とそれを支えた経済のグローバリゼーションが貢献し、この年に史上最高記録を達成した。観光旅行を含む総旅行市場は5兆9860億ドルで、法人旅行は全体の22%を構成する。

 法人旅行市場の中で世界最大は米国だ。フォーカスライトが4月にまとめたレポートによると、19年の米国法人旅行市場は1330億ドル。しかし、これは出張規定に基づく法人旅行(管理型法人旅行)の消費額であり、規定があっても緩やかにしか適用されていないか、規定そのものが存在しない非管理型法人旅行を含まない。米国旅行市場は大きく分けて観光旅行が全体の4割、管理型法人旅行4割、非管理型法人旅行2割で構成されるといわれる。従って広義の法人旅行は、全旅行市場4010億ドルのおよそ60%の2400億ドルと推定され、一大市場を形成している。

 パンデミック後の法人旅行市場は大幅に減少した。WTTCによると、20年は前年比61%減の5040億ドルに落ち込み、観光旅行市場の減少幅(41%)を大きく上回る。世界最大の感染者数を出した米国は管理型法人旅行が71%も減少した。

 現在は欧米を中心に都市封鎖が徐々に解除され、ワクチン接種が進んで旅行市場回復の期待がにわに高まっている。フォーカスライトのレポートでは、25年には19年レベルに需要が回復すると予測する。またヒルトンのクリス・ナセッタCEOは、旅行規制を緩和した中国と米国で同社の第1四半期の法人旅行収入が19年比25%減まで回復したことを例に挙げ、法人宿泊需要は24年までにパンデミック前に回復するとの強気の見通しを示した。

 しかし、こうした楽観的な予測には、旅行関連企業の願望や期待が少なからず含まれていると見られる。現実には、以前の市場規模には戻らないという見通しが大勢を占める。そうした状況で目下、事業者の動きが活発化している。中心にいるのが、法人旅行管理会社(トラベルマネジメントカンパニー〔TMC〕)で最大手のアメリカンエキスプレス・グローバルビジネストラベル(GBT)、そして旅行テック系スタートアップのトリップアクションズだ。

中小の非管理型旅行めぐり争奪戦

 米国の管理型法人旅行は、GBTに代表されるグローバルTMCが市場を席巻してきた。一方、非管理型の法人旅行は、主に中小企業が市場を構成しており、法人旅行事業者にとってはいまだ十分な市場開発がなされているとはいえない。ここがいま、TMCと先進的なテクノロジーを持つOTA(オンライン旅行会社)やスタートアップとの間で市場争奪戦が繰り広げられる草刈場となっているのだ。

 TMCは主に多国籍大手企業の法人旅行を取り扱っているが、航空券予約のGDSをはじめ各種手配に旧来のシステムを利用し続け、デジタル化に遅れているのが課題といわれる。対するグローバルOTAは、エクスペディアグループが法人旅行専門のエジェンシアを傘下に持ち展開してきたほか、ブッキング・ドットコムがブッキング・フォー・ビジネスの名称で法人旅行専門サイトを運営するなどの手法によって、TMCが長年優勢だった法人旅行市場に攻勢をかけてきた。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年6月28日号で】[1]

牛場春夫●フォーカスライト日本代表、航空経営研究所副所長。日本航空で主に事業計画、国際旅客マーケティングを担当。05年に退職し現職に就く。海外旅行流通・航空事業の情報収集と研究を行うTD勉強会を組織。

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル21年6月28日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2021/06/27/contents-87/