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データか直感か

2021年6月28日 8:00 AM

 直感で生きているといえば変人扱いされるのが落ちだ。では直感とは何だろうか。NHKがそんな番組を放送していた。脳の中心部に人間が普段意識せずにデータを格納している部分があり、人がリラックスした状態になると無意識に鍵となる重要データを出してくれる。それを直感というのだそうだ。なんのことはない。結局、直感=データによる判断だったのかとやや拍子抜けしてしまった。

 別の日にクリント・イーストウッド主演の映画を見たのだが、偶然にもこれまたデータと直感をテーマにしていた。長年プロ野球の新人選手のスカウト業務をしていた老人役の主人公が、データより直感で期待の新人かどうかをずばり見抜くという話だが、それも最後の鍵はデータであった(ただし一般的にはデータにされない打球音だったが)。

 つまり、直感とはいうものの、なんらかのデータを基にした判断であり、それを表立ってデータといわないだけで、人は物事を判断する際、必ずなんらかのデータに基づいているのだ。データを見て最終的にどう判断するか、そこで人それぞれに違う決断をする。いい例が株式売買だ。同じ値段なのに売りたいと思う人と買いたいと思う人がいる。それで初めて取引が成立。互いの判断が違うことが双方ともに都合がよい。

 さて、いまはまだコロナ禍の真っ只中。収束するもしないも概ねワクチン次第という状況だが、変異種のさらなる発生も気になる不安材料だ。とはいえ、一気に収まらないとしても収束の方向に向かう可能性は十分にある。ここで問題となるのが、何のデータを使い、どう経営判断をすべきかである。

 メディアが連日発表する感染者数はほぼ使いものにならない。全体の検査数や人口比での数値、つまり分母となるべきデータが抜け落ちているからだ。そんな絶対値には意味がない。人口に対する感染率やワクチン接種率、変異種発生頻度とその世界への拡散スピード、こちらの方がよほど判断材料として使える。

 日本はこれらの指標の把握も、実際の行動指標データであるワクチン接種率等でも、まだまだ欧米諸国に大きく遅れている。感染率が諸外国より低いことだけは幸運だったが、その理由はファクターX(祖先から受け継いだ独自の免疫機能等)が影響した可能性もあるので手放しには喜べない。日本人は積極的かつ先取的行動がどうも苦手なようである。

 一方でワクチン接種は人それぞれの判断があってよく、違う結果が出ても自己責任として受け止めればよい。人が進歩したのは、良い判断をしたからではなく、個々に判断をし、違う結果を得て、間違えたと思ったらすぐに判断と行動を変えてきたからだ。決断から逃げて何も実行しないのは、それが政府であれ、会社であれ、個人であれ、最低の行動だといえる。

 自分自身、ずっと続けているルールがある。それは性善説だ。時々やめようかとも思うが、まずは信じてみないことには始まらないので、明確に悪意や邪念が見える人以外は、まず信じてからその結果を見ることにしている。これまでのデータでは、残念ながら双方とも良い関係になれるのはだいたい5%前後という結果だ。

 「義を見てせざるは勇無きなり」と孔子は言った。人の欲望が義かどうかは別にして、私は「人を見て任せざるは勇無きなり」と置き換えている。相手だけではなく、自分の向上も重要な鍵である。さすれば成功率は10%程度にアップできるかもしれない。これが目下の目標だ。データは積み上げるたびに精度が上がる。精進あるのみだ。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。