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GoToは観光業界の利権か

2021年6月14日 8:00 AM

 GoToトラベルキャンペーンを再開できない理由のほとんどは、本事業に対して国民の支持が離れたことによるものだろう。政府や観光業界に向けられた批判について、①GoToは余裕のある人を優遇する不公平な税金の使途なので不適切、②GoToで観光業界だけを助けるのは業界利権であり国民全員に直接支援するべき、③GoToが感染拡大の原因なのは間違いないのに現段階で推進するなどあり得ない、という3点に大別し、前回は①について考察した。今回は②について整理しておきたい。

 経済を俯瞰して見ることのできない人にとっては、国が観光業界を集中的に支援しようとしていることが不思議でならないのだろうが、まずは観光産業の規模感をおさらいしておきたい。

 観光庁「旅行消費による経済波及効果」によれば18年の旅行消費額は27.4兆円、生産波及効果は55.4兆円(国民経済産出額の5.3%)、波及効果を含めた雇用誘発効果は441万人(全就労者数の6.4%)である。参考までに同年の自動車関連就業人口は542万人(全就労者数の8.1%、日本自動車工業会推計)とあるので、すでに自動車産業に次ぐ巨大産業であることは紛れもない事実となった。

 その産業の需要が作為的に蒸発したのだ。ちなみに自動車産業がリーマンショックで大打撃を受けた時、生産台数の減少はせいぜい10%程度だった。そのカバーのため初年度は6000億円、その後10年以上にわたり数兆円規模のエコカー補助金が必要となったことからも、需要が半減した観光業にはより迅速かつ大規模な支援が必要であったことに異論はないだろう。

 観光事業者への直接支援ではなく、GoToトラベルという消費喚起策を選択したのもエコカー補助金と同じ理由である。それは産業の裾野の広さと波及効果の大きさだ。前掲の旅行消費額と生産波及効果の比は2.0倍となり幅広い業種に関係していることがわかる(自動車産業は2.7倍といわれる)。

 地方の宿泊施設、観光施設の波及効果の大きさは単に1施設当たり数百社にも上る取引業者の数だけではない。例えば地域に観光地を抱えていた過疎地では、スーパーやコンビニ、ガソリンスタンド、タクシー、電気屋、水道屋など幅広い業種が消えたとの話もある。ホテルに食材を卸していた食品卸業者が地元スーパーを兼ねていたし、ガソリンスタンドは目の前を通過する観光客の売り上げで維持できていた。電気屋や水道屋も主な顧客は観光事業者で、もともと地域住民だけではこれらの生活インフラ産業を支えきれていなかったことが露呈したのだ。GoToトラベルの受益者を宿泊業と旅行業と旅客業のみと勘違いしている識者も多いが、地方ではほぼ街中が受益者であったのだ。

 当然、観光事業者への給付のみでは全員にお金は行き渡らない。直接給付ですべての関連事業者を救おうとすると単純に55.4兆円が必要となるということであり、需要が半減したと仮定しても月2兆円以上の財政出動が必要だった。これと比較すると半年で1兆円規模のGoToトラベルは効率的かつ、実質的に国が儲かる仕組みであり、政策として選択の余地はなかったのだ。

 前回の繰り返しになるが、本論は業界の弁護やポジショントークではない。GoToが批判されている現実を確認しておくことで、われわれの置かれている立場を理解する必要があると考えるからだ。そこには今後の観光業復活にあたり重要なヒントがあるように思えてならない。次回は③について記したい。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社後、ゆのごう美春閣M&Aをはじめ数件の再生案件に関わる。日本旅館協会副会長、元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。