『時代劇聖地巡礼』 有名観光地のひと味違う面白さ

2021.06.14 00:00

春日太一著/ミシマ社刊/1980円

 時代劇が減っているんである。

 小学生のころは時代劇ファンで、父親参観日に「水戸黄門と私」という作文を読み上げ、愛好家の父を感動させた身としては寂しい限り。とはいえ時代小説は花盛りだし、大河ドラマもまだまだ元気。消えないジャンルだろう。

 私が暮らす京都といえば、太秦撮影所の地。撮影所近くの飲食店に行くと、渡哲也やキムタクが撮影合間に来た時のエピソードを教えてくれたりする。

 だが京都と時代劇の関係は、撮影所だけではない。古い街並みや神社仏閣が多いことから、ロケ地としてもよく使われるという。誰もが知ってるシーン、「あの江戸の景色」は京都の意外な所で撮影されているのだ。

 本書は映画史・時代劇研究家で数々の時代劇の現場も見てきた著者が、京都と滋賀の41カ所の名勝を巡り「あの場面」の現場を紹介しつつ、同じ角度で写真を撮り歩いた紀行エッセイだ。

 私も日頃よく散歩する下鴨神社の糺(ただす)の森が、「鬼平犯科帳」のオープニングで鬼平が馬で駆け抜けるシーンや、「必殺」シリーズで中村主水が敵にトドメを刺す場面で使われていたり、意外なことのオンパレード。嵯峨野の大きなお寺・大覚寺は業界ではメジャーなロケ地だそうで、境内の明智門は奉行所の出入り口として数多くの時代劇に登場しているとか。嵐山の渡月橋横にある中ノ島橋、八幡市の流れ橋など、映像でよく見る「あの橋」はここなのか、という発見がたくさんある。どうやったら同じアングルで写真が撮れるか、といった具体的なアドバイスも興味深く読める。

 メジャーな観光地でも、専門家フィルターを通すとまた違った面白さが見えてくる。旅というレジャーの多様性を感じさせる楽しい紀行書だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

関連キーワード