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東京交流創造ネットワーク協議会の市川宏雄委員長が語る「東京が世界一を目指すために」

2021年6月14日 12:00 AM

東京交流創造ネットワーク協議会の設立記念シンポジウムが都内で開催され、同協議会の市川宏雄委員長が基調講演を行った。同協議会は東京の都市力向上を目指し昨年7月に発足。コロナ禍で延期されていた記念シンポジウムを5月12日に都心サミット(主催・大都市政策研究機構)と共同で開催した。

 東京が世界一の都市を目指すのには何が必要か。それを示す考え方が「国際交流創造都市・東京」です。英語ではGlobal Interaction-Creating City Tokyo。GIC と省略して「ジック・シティ・トウキョウ」と覚えていただいて結構です。実はこの呼称の発案者は小池百合子知事でした。国際交流創造都市の構想を説明した際に、「ジック・シティ・トウキョウね」と仰ったのがきっかけだったからです。

 東京では近年、東京駅周辺の大手町・丸の内・有楽町、日本橋界隈、虎ノ門・六本木エリア、渋谷駅周辺と、都心のあらゆる場所で世界標準の再開発が行われ、現在は品川で開発が進行中であり、今後も新宿や池袋で大規模再開発が始まります。築地や臨海エリアの再開発も控えており、都心全体がこれほど多拠点において、しかも大規模に再開発されているのは世界的に見ても東京だけ。ロンドンやニューヨークを上回ります。

 森記念財団の「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index : GPCI)」によると東京はロンドン、ニューヨークに次いで3位にランクされます。16年にパリを抜いて以降、3位を維持していますが、1位のロンドンとの差は開いているのが実態です。ランキングの順位変動や評価スコアの内容を見ていくと、ロンドンは欧州連合(EU)離脱国民投票後に伸び悩みましたが、すでに勢いを取り戻し1位を維持しています。2位のニューヨークの評価スコアはこのところ横ばいで推移しているため、東京との差が開いているわけではありません。しかし東京も伸びていないので差が縮小しているわけでもなく、1位のロンドンとの差はどんどん開きつつある状況です。

 GPCIのデータを比較すると、ロンドンに追いつき東京が1位を目指すために何が必要かが分かります。GPCIは世界の主要都市を「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野で評価し順位付けしています。このうち上位2都市に水をあけられているのが文化・交流分野ですが、一方で東京のポテンシャルを考えると、この分野のスコアを上げていくのは十分に可能だと思われます。

 文化・交流分野はさらに、「発信力」「観光資源」「文化施設」「受入環境」「外国人受入実績」の5つの指標に分類される16項目で評価されますが、東京は「受入環境」については強みとする項目が多く、たとえば買い物の魅力や食事の魅力は長く1位を維持し、ホテル客室数も1位です。

東京が世界1位を目指すために

 反対に東京の弱みとなっているのが「観光資源」のうちのナイトライフの充実度(20位)とハイクラスホテルの客室数(19位)です。ナイトライフの充実度はロンドンが圧倒的な強さを発揮しています。夜遅くまで観劇できて、その後に食事を楽しみ帰宅できる。たとえば上野の美術館や博物館が17時には閉館してしまい、観劇なども夜の早い時間帯が主流で、しかも観劇後の食事をするにも選択肢が限られる。深夜は公共交通機関も止まってしまう。そんな東京の評価は低くならざるをえません。

 また、ホテル客室数が1位なのにハイクラスホテルの客室数は19位という東京のホテルの現状も問題です。東京の地価が高いのは確かですが、同じように地価が高いロンドンや香港はハイクラスホテルがたくさんあることを考えれば、東京も言い訳できません。

 しかし、「文化施設」の中の劇場・コンサートホールの数(5位)や、美術館・博物館の数(7位)にはポテンシャルが感じられます。都心から10㎞圏内の施設分布を見ても、東京はロンドンやニューヨークと遜色ない。東京は上位2都市と比べて、劇場・コンサートホールや美術館・博物館の都心中枢部への集中度が低く、比較的分散している傾向はありますが、弱点というわけではありません。劇場・コンサートホールや美術館・博物館の充実度を見ると、取り組み次第で東京の文化・交流に関するスコアは上昇の余地が大きいと考えます。

 弱点を克服すればスコアを上げられます。つまりナイトタイムエコノミーの活性化を図り、ハイクラスホテルの整備を進める。文化エンターテインメント活動の強化と施設の整備で弱点を克服できます。

 東京の魅力を持続的に向上させていくには都市の魅力の3要素である「文化の成熟」「国際的な接触・融合」「産業の創造」を循環させることが大切で、このサイクルがうまく回っていくようにしなければなりません。まず文化の成熟には異文化との接触や融合が必要です。だからこそわれわれはExchangeではなくInteractionを重視します。異文化との接触が文化の成熟を生むのは歴史が証明しています。代表例がコンスタンチノープル(現在のイスタンブール)でしょう。まさに異文化同士の接触が文化的成熟をもたらした歴史的事実をこの街に見ることができます。

 そして文化の成熟は産業を創造し、産業の創造がさらなる国際的な接触と融合を呼び込むのです。協議会で実現したいのは、そうした循環に支えられて魅力を増し続ける東京の姿です。つまり都市に集う人々や文化が交流し、互いに影響し合い、インタラクションによって都市の新しい文化と活力を生み続けクリエイティングを続ける形です。

 こうした考えの基になったのは、協議会の前身である「TOKYOの役割・都市を愉しむグランドデザイン研究会」でした。JTB取締役相談役の田川博己氏や国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所代表の本保芳明氏らと共に、東京をどうすればもっと愉しめる都市にできるかについて、2年間にわたって議論した成果です。

 ここであらためて東京交流創造ネットワーク協議会の3つの基本方針を紹介します。1つは東京の都市としての魅力向上に資する「国際交流創造都市・東京」の実現に向けた取り組み、次に三位一体(産官学)による東京の文化・交流面を磨くことを目指した活動および事業開発、そして東京のソフトとハードのステークホルダーを一堂に会してエリア連携で事業を推進していけるプラットフォームの構築です。

鍵握るエリア連携・イベント連携

 東京では非常に多くのイベントが年間を通じて開催されています。ただし、それぞれが個別に開催されているため東京という都市の魅力として生かし切ることができておらず、極めてもったいない状況です。たとえば5月でいえば、六本木エリアでは六本木ヒルズで六本木アートナイトが開催され、大・丸・有エリアではラ・フォル・ジュルネTOKYOがあり、他にも多くのイベントが各エリアで開催されています。ただし、それぞれがばらばらです。

 これをエリア同士をつなぐネットワークの構築により連携させることができれば、東京の魅力を向上させられるはずです。そういう視点に立ち、各エリアで何が行われているか情報を共有し連携させれば、互いにメリットを生み出すことも可能で、それぞれが収益増を図るチャンスを作っていけます。工夫すれば、個々の取り組みにとどまっていたものが東京全体の財産となり、世界に向けて発信できれば東京にとっても個々の取り組みにとっても大きな強みになります。

 東京で進行中の、世界的に見ても他に例のないような都市開発と、東京で実施される豊富なイベントを組み合わせて付加価値を上げていくのは東京にしかできないことで、東京交流創造ネットワーク協議会の役割もそこにあると思います。

 拠点エリアの点から、広域エリア連携による面へと取り組みを広げ、多様な人々が集う交流空間を新たに創造する。それが東京の魅力向上に力を与えてくれます。

 対外発信と対行政の活動は、企業やイベント主催者が単独で取り組むのではなく、協議会として取り組む方が成果を上げやすい分野でしょう。情報発信については「東京に行けばこの時期にはこんなイベントがある」と簡単に分かるように情報を整理して発信する。それだけにとどまらず、将来的な構想になりますが、イベントに参加したいと考える者に対して具体的に申し込みまでできる仕組みも用意していきたいと考えています。

 対行政については、イベント開催時における行政協議のルール化を図りたいと考えています。たとえばイベント開催時に欠かせない開催地の警察との協議なども円滑化を図れると思います。行政協議は地域や自治体により事情が異なりますが、共通部分だけでもルール化し、イベント開催の円滑化を後押ししたいと考えています。

 協議会の具体的な事業計画としては、今年度中にホームページやSNSを開設し、協働によるPR活動を始めます。現在はまだウィズコロナの時期ですが、秋以降は東京への人流も動き出すと見ています。当面はインバウンドの動きはなく、国内需要に限られると思いますが、人流再開へ向けて協議会としての活動を本格化していき、パイロットプロジェクトの企画を立ち上げたいと思います。

 22年度にはインバウンドも動きだすはずです。この時点ではエリア連携によるプロジェクトを実施し効果検証までやりたい。デジタル・トランスフォーメーションにも取り組み、デジタル決済やデジタル入場券の開発やデジタルマネジメントプラットフォームの基盤づくりにも着手します。

 そして23年度にはハード面を担う都市開発事業者と、イベントなどソフト面を担う交流創造事業者の強固なネットワークに基づく成功事例を数多く生み出せるようになることを期待しています。

 東京の魅力向上を図り世界一の都市を目指すには、東京の交流創造に関わるすべての企業・団体が参集することが重要です。多種多様なステークホルダーの参画を実現する会員組織が必要です。東京交流創造ネットワーク協議会がその役割を担い、「国際交流創造都市・東京」を実現していきたいと考えています。

いちかわ・ひろお●1947年生まれ。富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)などを経て、1997年明治大学政治経済学部教授(都市政策)。明治大学専門職大学院長などを歴任。現在、大都市政策研究機構理事長などを務める。多くの都市政策立案に携わり東京都との関わりは30年以上に及ぶ。