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地方銀行の観光振興 地域を変える新たな枠組み

2021年6月14日 12:00 AM

(C)iStock.com/Twomeows_IS

地方銀行が地域の観光振興やまちづくりに関わる課題解決を目指し、新会社を設立する動きが活発化している。背景には段階的に進んできた規制緩和があり、さらなる緩和策を盛り込んだ改正銀行法も成立した。資金的支援にとどまらず、自らプレーヤーとして乗り出す地方銀行を追った。

 山口銀行やもみじ銀行、北九州銀行などを傘下に持つ山口フィナンシャルグループは昨年6月、地域観光振興会社をうたうワイエムツーリズムを設立した。グループとして持続可能な観光地の構築に取り組み、観光分野の課題解決と交流人口の増加による地域の価値向上を目指す体制を強化した。奈良の南都銀行も、古民家再生などによる地域経済発展を目指す新会社として奈良みらいデザインを今年4月に設立している。1月には京都銀行が宇治市、舞鶴市、南丹市の特定エリアを投資対象とするまちづくりファンドとして、京銀まちづくりファンドを設立。3月には、京都府を対象とする地域づくり京ファンドも立ち上げた。地域振興事業を手掛ける会社と地域振興を目的とする事業に投資するファンドという違いはあるが、地方銀行による観光関連分野への取り組みが活発化していることは確かだ。

 こういった動きに先行して、地域商社の形で地方創生に貢献しようという取り組みも増加していた。地域商社とは、地域産品のマーケティングや域外への販売を行う会社を指す。たとえば、山口フィナンシャルグループは17年に地域商社やまぐちを設立し、県産品のブランディングや販路開拓に取り組んでおり、山形銀行は19年に設立したTRYパートナーズで地域商社事業とコンサルティング事業を手掛けている。そのほかにも、岩手銀行のmanordaいわて、中国銀行のせとのわ、みちのく銀行のオプティムアグリ・みちのく、阿波銀行など4行によるShikokuブランド等々、これまで地域商社の設立事例は数々あり、今後の設立計画も続々と発表されている。

 このような流れの延長線上で、同じ地方創生を目的とする地方銀行の動きがいよいよ観光振興やまちづくりの分野に及んできた形だ。

銀行法の規制緩和が後押し

 地方銀行の地方創生への取り組みが活発化している背景には、銀行法改正よる規制緩和がある。銀行法は銀行が金融・保険業務に専念することを求め、他業禁止の原則を定めている。しかし、段階的に規制緩和が進められており、それに伴い取り組みが増加している。

 他業禁止に関する規制緩和は、13年の改正により、一定の条件の下、投資専門子会社を通じてまちの面的再生など地域活性化を目的とする事業会社に出資する道が開かれた。19年には出資制限を緩和するようガイドラインを改正した。また17年の法改正では、銀行業高度化等会社制度を使い、地域商社などを銀行が自ら設立することも認められた。

 地方銀行にとっては、少子高齢化に伴い地盤沈下する地域経済を活性化することこそ最大の課題だ。また超低金利時代に収益を確保していくためには、地方創生の原動力として期待できる地域振興に大きな期待をかけている。それだけに規制緩和が進めば、地域活性化事業や観光振興事業への取り組みを強化する地方銀行が増加するのは自然な流れともいえる。

 金融庁は「ポストコロナの日本経済の回復や再生、あるいはデジタル化や地方創生などの進展による持続可能な社会の構築を図るため、銀行規制を見直す」との方針で、さらに規制緩和を進める構えだ。たとえば、これまでは銀行が投資専門子会社を通じて地域活性化事業会社に出資する場合、出資比率の上限を50%としていたが、これを最大で100%の議決権取得も可能とする改正を進める。

 これらの変更を含む銀行法の改正案は今国会ですでに成立。金融庁によれば、改正銀行法は公布手続きを経て11月下旬ごろに施行となる見通しだ。そうなれば、地方銀行の地域活性化事業への取り組みがさらに活性化する可能性がある。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年6月14日号で】[1]

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル21年6月14日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2021/06/13/contents-85/