欧州の玄関ヒースローの問題

2021.05.31 00:00

 ロンドンのヒースロー空港は欧州最大の空港で、昨年は英国のロックダウンの影響によりパリのシャルル・ド・ゴール空港に抜かれたが、一昨年は8100万人が利用した。日本人が最も多く利用する欧州の玄関口だ。しかし英フィナンシャルタイムズは同空港の問題について、夏ごろの海外旅行復活が危ういと指摘している。

 問題の1つは入国手続きに時間がかかりすぎて旅行者の長い列ができることだ。現在はコロナによる航空便減少で通常の1割程度となる1万~1.5万人しか入国者がいないが、入国審査に3時間以上の行列が生じ最大6時間も足止めされることがあり、いらだった旅客の混乱を鎮めるために警官が出動したこともあった。

 原因は政府が配置する出入国管理官の不足だ。現在は事前手配の国内隔離ホテル、入国者全員の国内居住場所、旅行先、陰性証明確認など特殊事情があるが、今後、本格的な旅行再開時に改善されるか疑問視されている。この問題はコロナ以前からあったが、政府はスタッフ増員に消極的とされ、書類審査の自動化も遅れる。システムのデジタル化が必要だが、政府は不要不急の旅行の規制に注力しており、早急な実現を空港側は楽観していない。長すぎる行列は英国ツーリズムの復活を妨げ、航空産業だけでなく英国経済に与える影響は大きい。

 7月にはヒースロー空港のタクシー駐車料が現行の3.6ポンドから3倍近い10ポンドに引き上げられる。英国で通常利用される黒色タクシーは空港の駐車場に待機し、行列を管理する空港担当者の指示を受けターミナルで客を乗せる。空港から市中までの料金は90ポンド程度で魅力的な収入源だが、1回の運送で空港から請求される10ポンドは大きすぎる。

 ターミナルへのアクセスは厳重に管理され、旅客を迎える指示待ち時間はパンデミック以前で3時間だったが、いまでは24時間待ちも珍しくない。そのために空港に滞在して週末に帰宅する運転手もいるという。タクシー運転手はすでにウーバーなど配車アプリに仕事を奪われ収入の減少から離職者が増えているが、駐車料値上げでさらにタクシー不足になる恐れがある。タクシー運転手組合は値上げに反対しているが、昨年来の巨額赤字を抱える空港に撤回する考えはない。日本人ツアー客にも関係する送迎バスの駐車料も倍額の56.54ポンドになり、旅行代金の値上げにつながるだろう。

 ヒースロー空港は昨年20億ポンドの赤字だったが、今年は26億ポンドの赤字に膨らむ見込みだ。空港は赤字の一部を補うため5%の着陸料値上げを求めたが、政府は22年から旅客1人30ペンスの値上げを認めただけだ。1人当たり21.08ポンドという着陸料はすでに世界最高水準で、発着便を外国空港に奪われる懸念がある。当然、同空港ベースのブリティッシュ・エアウェイズなどは運賃値上げにつながるとして値上げに反発、IATA(国際航空運送協会)も反対声明を出した。

 民営のヒースロー空港も、着陸料だけでなく駐車料など関連サービス料金まで政府の規制を受ける。政府は消費者の立場から値上げを抑えるが、同空港にはスペインの企業やドバイの政府系ファンドが投資しており、赤字継続は海外投資家の信頼を損ねる懸念がある。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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