『進撃の巨人』 大人こそ楽しめる名作

2021.05.31 00:00

諫山創著/講談社刊(1~33巻既刊、6月9日に34巻発売)

 自粛中、数少ない良かったことといえば、『進撃の巨人』をコンプリートしたことだ(←大人としてどうだろう)。

 09年9月、月刊「別冊少年マガジン」で連載開始され、21年4月に11年続いた物語が完結した。アニメは断続的に放映されており、この冬、最終シーズンの2期目がスタートする。総発行部数1億部超、各種業界とのコラボも盛ん。世界的に人気の高い作品だ。

 初期のアクが強めの画風が肌に合わずコミック2巻で挫折していたのだが、自粛期間中にアニメを全部観てハマり、コミック全巻を大人買い。11年間続いた濃厚な物語を2カ月でいっぺんに摂取したので胃もたれ気味にはなったが、張り巡らされた伏線が最終話に向け一気に回収されていくのは気持ち良く、登場人物がじゃんじゃん死んでいくなか、最終回はもはや号泣である。

 物語の核は、人を食らう巨人群と人類の戦い。巨人を防ぐ3重の壁を築いて暮らす人類だが、自由と土地を求め壁外に出る試みも行われていた。母を巨人に捕食された主人公のエレンは巨人を駆逐することを誓い、訓練兵となる。仲間が次々と死ぬ悲惨な戦いの最中、巨人に食われたエレンが巨人となって出現。巨人と戦うその姿を見て人々は恐怖と期待におののく。巨人とは何なのか。壁の外には何があるのか。

 主人公が敵をやっつけるヒーロー漫画と思いきや、物語は途中でがらりと様相を変える。勧善懲悪の物語は復讐の物語となり、善と悪も正解もわからなくなってくる。戦わなければ死ぬ絶望感、壁の閉塞感、民族紛争、人種差別など世界情勢を思い起こさせつつ、最後まで巨人とのバトル漫画であったのはお見事。社会問題が理解できる大人こそ楽しめる名作だ。最終巻ももうすぐ発売なので、いまからでもぜひ!

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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