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地域に寄り添う人材づくり 関係構築とマインドセット

2021年5月31日 12:00 AM

(C)iStock.com/MOF

旅行関連事業者が相次ぎ地域振興事業を強化している。成長領域として期待を集めていたところにコロナ禍が後押しし、動きがより活発化した。そうした動きの中で最近目立つのが地域に社員を送り込む密着スタイル。しかし、地域コミュニティーとの関係構築は一筋縄ではいかない。地域に寄り添う人材づくりが鍵を握る。

 大手旅行会社の中期経営計画を見ると、非旅行事業の拡充、特に地域振興に関わる事業への取り組みを積極化する姿勢が目立つ。たとえばJTB。新交流創造ビジョンとして示した事業構造改革の3本柱の1つにエリアソリューション事業を掲げる。従来のツーリズム事業で培ってきた自治体や観光関連事業者との関係を生かし、地域の魅力向上に寄与し人流を創出するビジネスモデルに挑戦する。そのために地域ソリューション事業部を設置済みだ。

 近畿日本ツーリストや日本旅行も中期経営計画で地方への人流創出や観光地事業、地域活性化事業の強化方針をうたっている。阪急交通社は地域振興を見据えて一般社団法人地域未来企画を昨年8月に設立し、観光PRや特産品販売、地域交流会の開催、ワーケーションの推進などに取り組んでいる。今年4月には地域振興部も新設した。

 航空会社も地域振興事業に積極的だ。ANAグループは非航空事業の拡大へ舵を切り、グループの強みを生かしたトータルソリューションによる地域の課題解決を提供していく考えだ。そのために航空券販売を担ってきたANAセールスを業態転換し、地域創生事業を担う新会社「ANAあきんど」へ看板を掛け替えた。日本航空も航空事業以外の収益の柱として地域事業領域の強化を目指し、これまでの地域活性化への取り組みをベースとして、地域に密着し課題を解決する事業形態への進化を図るとしている。

 非旅行事業を重視する旅行会社の動きも、非航空事業に期待する航空会社の傾向も、以前から始まっていたが、コロナ禍でより鮮明化し加速している。その結果、地域活性化の分野における競合も激化。4月の記者会見でANAあきんどの高橋誠一代表取締役社長は、「新しい地方創生を提案していく余地は大きくチャンスが広がっていくと感じている」と期待する一方で、「地域活性化事業はどちらかといえばレッドオーシャン化している」ことも認めた。

 競合が激化するなかで地域の信頼を獲得し、地域振興事業の実を上げたい各社の最近の取り組みの特徴が、社員を地域に送り込む密着スタイルだ。ANAあきんどは「地域とともに暮らすANAグループコンジェルジュ」を掲げ、 全国33支店に在籍する社員のうち約120人を地域密着社員として配置して地域の課題解決に当たらせる。高橋社長は「多くの社員が旅行セールスとエアラインセールスの両方を経験している。そこで得た広い視野が地方創生に当たっても強みになるはず」と自信を示した。

 日本航空は昨年11月に地域事業本部を新設し、社員が地域活性化を手伝うアンバサダー制度を発足。また客室乗務員が乗務をこなしつつ地域活性化の活動に参加するふるさと応援隊制度も導入し、地域発の新規事業開拓に取り組んでいる。自治体との人材交流にも着手しており、今年3月には三重県志摩市と地域活性化を目的とする連携協定を結び、観光振興や人流創出を図るために人材交流や人材育成を含む協力体制を構築していくという。

 阪急交通社は4月に熊本県玉名市と社員の派遣に関する協定を結び、玉名市観光アドバイザーとして派遣。同市観光物産課に所属し観光戦略や観光施策の助言や提案、商品開発、販路開拓を行っていく。協定は総務省の地域活性化起業人(起業人材派遣制度)を活用したものだ。同社は今回の取り組みについて、地域に寄り添い地域の活性化に貢献する人材育成を目指す同社の姿勢を具体化した事例だと説明している。

 東武トップツアーズも起業人材派遣制度を活用し、4月に新潟県妙高市と社員派遣に関する協定を締結。2年間の予定で妙高市に社員を派遣する。このほかにも総務省の同制度を活用した事例として、地方創生事業のプロデュース会社・さとゆめが茨城県大子町に4月から3年間の予定で社員を派遣する例もある。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年5月31日号で】[1]

Endnotes:
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