海外旅行再開への道のり

2021.05.17 00:00

 これまでに12万7000人というロシアを除くと欧州最大のコロナによる死者が英国で失われた。昨年3月からほとんど切れ目なしに厳しいロックダウンが続けられたが、英国発生の変異株もあって対策の成果が見られない期間が長く続いた。それが最近様子が変わり、このところの英国の日ごとの新規感染者数は4月16日で2756人とピークの7万6000人から大幅に減少している。これはこれまで対コロナの優等生であった日本の最近の新規感染者数より人口当たりでも少ない。

 英国では改善した最大の理由はワクチン接種が急拡大したためとされる。関連データをリアルタイムで提供するサイトによれば、世界の主要国の中で少なくとも一度ワクチン接種した人の割合が最も高いのは4月16日で62%に達したイスラエルだが、英国は48%で世界2位。ちなみに日本は4月15日で0.9%とかなり寂しい数字である。

 状況の劇的な改善により、厳しいロックダウンも少しずつ緩和されている。ロンドン郊外の小さな村に住む知人が、最近まで住民同士の立ち話も禁止されていたが、ようやく普通に話せるようになったと嬉しそうにメールをよこしたほど雰囲気が好転しているようだ。英国政府もポストコロナに向けた政策を推し進め、3月8日に学校再開など、4月半ばには生活必需品販売以外の小売店やサービスが再開、5月半ばにはイベントの人数制限緩和などが行われる。そして6月末には法的な規制をすべて解除するシナリオが動き始めている。

 ツーリズムの分野ではグローバルトラベルタスクフォース(GTT)という組織を立ち上げツーリズム、とりわけ外国旅行をどうやって正常に戻すか検討している。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)などの民間組織も協力し、いわばコロナ後の国際往来のあり方のグローバルスタンダードを提示したいという意気込みが感じられる。

 GTTはロックダウン緩和の第3段階となる5月17日は、禁止されているレジャー目的の海外旅行が解禁される日になりうるとしている。再開後はワクチン接種状況、感染者率、変異株、検査・分析能力などにより各国をリスクの低い順に青・黄・赤に分ける。赤の地域に旅行した場合は帰国後10日間管理された宿泊施設に自費で滞在し、PCR検査を2回受ける。現在およそ40カ国が赤グループにされる見込みである。黄の国に行った人は10日間の自主隔離と2度のPCR検査が義務付けられる。青のエリア訪問者は出発前と帰国後のPCR検査だけで、帰国後の隔離は不要。報道によれば英国でのPCR検査は2回で120ポンド(約1万5000円)かかり、旅行業協会などは高すぎて現実的でないと抗議している。イングランドで始まった全住民対象にした無料の抗原検査を使うべきという声も強い。

 1回目の接種率が40%近くなった米国でも夏の休暇を前に旅行需要の急拡大が始まっていて、ツーリズム関連産業で人手不足感が強まりつつある。4月初めにはデルタ航空がパイロット不足で100便キャンセルしたり、ウーバーは需要拡大にドライバー確保が追い付かないといった具合である。

 日本の現状からは実感がわかないが、いずれ同じような状態になりえる(ならないと困る)わけで、どのように再起動するか早めの検討が必要だ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

関連キーワード