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百年コンサルティングの鈴木貴博代表が語る経営者が知っておくべき2020年代の未来

2021年5月17日 12:00 AM

初のオンライン開催となったJATA経営フォーラムの基調講演に2月26日、未来予測の専門家である百年コンサルティングの鈴木貴博代表取締役が登壇した。コロナ禍で不安感を抱える多くの観光業界人にとって、コロナ禍の終息やアフターコロナの旅行需要成長に言及した同氏の講演はどのように受け止められただろうか。

 本日は未来予測を専門とする者として、これからの経営環境がどのように変わっていくのかを説明します。ただし経済学および統計学の知識を前提とした予測で、医学的・疫学的なものではないことをお断りしておきます。

 まずはっきりしているのは、コロナ禍は5月で終わること。その後は明るい未来が待っています。あと少しの辛抱です。緊急事態宣言が解除され、その後、第4波で再び感染が拡大するリスクは残るものの、コロナ禍の医療崩壊リスクは5月で終わるでしょう。6月以降は夏に向かうため、感染者数が増えても重症化率が下がることが分かっています。病床使用率は上がらず経済的な悪影響も抑えられます。同時にワクチン接種が進み秋以降は感染者、重症者、死亡者が目に見えて減少し、コロナ禍は医療問題から経済問題のステージへ移ります。

 世界的にも米国、欧州、中国をはじめとする各国でワクチン接種が進みコロナ禍は世界的に終息へ向かうでしょう。変異種の出現といったリスクは残るにしても、未来に向けて心配し過ぎることなく、市場が戻ってきた際にいち早くサービスを再開できるよう準備しておくことが重要です。

 ただしコロナ禍終息後の経済回復はタイムラグが生じるためコロナ禍そのものの終息より遅れます。一番早く回復するのは飲食や国内旅行で8月以降の回復が望めます。理由はGoToイートやGoToトラベルといった国の支援で需要が作られるからです。GoTo施策は経済学的に理に適っており、冷えてしまった経済に即効性があります。

 GoTo施策の賛否があった時期に新聞社が世論調査を行ったところ、国民の半数は外出を控え家にこもっていたいと考え、半数はできるならば外出したいし旅行にも出かけたいと考えているという結果でした。そんな状態だったところへGoToが実施され、旅行したかった者だけでなく、計画していなかった者たちも出かける結果となり国内旅行需要は盛り上がりました。

 そもそも旅行や飲食は経済学的に価格弾性が高いとされます。価格弾性、つまり「値下げをしたら買う人が増える効果」が高い。だから旅行したい人がコロナ前の半分でも、残りの半分が2倍以上の頻度で旅行すれば需要は増える。人工的に需要を増やせるわけです。コロナが終息したら、国にはぜひGoToトラベルキャンペーンを再開してほしい。注意すべきは値引きの時期を長くしすぎると値頃感に悪影響を与え、「旅行は安く行けるもの」とのイメージが定着してしまうこと。昨年のような50%割引ほどではない程度のお得感から始め、徐々にソフトランディングし、秋から冬に通常価格レベルに戻すのが望ましいと思います。

 インバウンド需要回復は22年以降になると予測されます。ただしわが国で唯一、大きくV字成長する事業です。戻りは一番遅れるが、戻りも一番デカイ。ここを目指して頑張れるだけ頑張るべきというのが未来予測の見地からいえることです。

 インバウンドの回復と成長を示す指標がいくつもあります。中国では20年秋冬の新車販売が増加し富裕層増加がうかがえ、日本への旅行希望者も増えています。バイデン大統領の融和政策もあり中国人旅行者は政治的にも世界へ出かけていきやすい環境になります。さらに日本経済のデフレ傾向は変わらず、訪日外国人に日本でのショッピングは魅力的です。19年の実績を超えるインバウンドの盛り返しは十分予想できます。現状は極めて厳しいですが、ここで止めてしまうのはもったいない。引き締めるべきは引き締め、今後の回復トレンドをしっかり捉えるよう努めるべきです。

コロナ禍後の成長に期待

 今夏以降に始まるアフターコロナの時代は、徐々に経済が戻りますが、元通りに戻るのではありません。コロナの爪痕は残り産業構造の変化は必至です。全体状況は消費者の所得が減り需要が減退し、金の使い道を奪い合うライバル競争が激化するため供給過剰となります。さまざまな事柄をオンラインで済ませる便利さに消費者が気づいた結果、オンライン選好が進み、リモートワークや巣ごもり生活に馴染んだため外出が減少します。このような社会の意識変化に適応するため、サプライチェーンの組み換えが起き、すべての産業が模索し、従来通りのビジネスではなくなり、どの会社も変わらなければ生きていけなくなります。

 このような変化に今年、旅行業界はどう対処したらよいか。インバウンドの回復は22年を待たねばなりませんが、ビジネスチャンスはあります。まずは富裕層ニーズの取り込みです。国民全体の所得が減るなかで、一定の貯金があり年金も当てになる高齢者を中心とする富裕層の消費意欲の回復は早そうです。外出に飢えている者も多く、大きなビジネスチャンスにつながります。

 高齢者の長期滞在需要も注目です。もともと日本では掘り起こし切れていなかったニーズで、潜在需要は大きい。長期滞在旅行は人数が少なくても泊数が多いため需要をキープできる。長期滞在ニーズをどう作るかは重要な着眼点となります。

 そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)がアフターコロナの世界を変える原動力、大きなビジネスチャンスとなります。米国の事例から紹介します。コロナ前とコロナ後を比較した株価上昇率は、ダウ平均が5%プラスであるのに対し、アマゾンは59%増、ウォルマートは36%増。アマゾンの株価上昇率が高いのは当たり前と考える人も多いでしょう。巣ごもり生活で通販事業が強くなるのは当然ですが、棚からぼた餅式ではありません。アマゾンはDXを生かした工夫によって売り上げを増やしたのです。

 通販では再配達が大きなコスト要因になるので、アマゾンは再配達を減らす目的で置き配サービスを行っていました。しかし受け取る消費者側にとっては荷物の盗難や破損が不安です。そこでアマゾン・キーというシステムをDXにより導入したのです。自宅玄関のカギをデジタル化して配達員が開けられるようにしました。もちろん防犯上の不安がないよう複数の監視カメラが連動し、誰が玄関を開け、出入りし、何をしたかを記録。顧客が確認できるようにしました。これこそDXです。これまでできなかったこと、できるはずがなかったことをデジタル技術を使って可能にしたのです。

 アマゾンは通販だけでなく、DXを活用することでリアルの世界にも進出しています。アマゾン・ゴーがそれ。いわゆる無人コンビニです。米国4都市で26店舗を実験的に運営中です。ここではレジに並ぶ必要もなく、精算手続き自体が不要です。来店客は商品棚から欲しいものを取るだけ。店内には無数のカメラとセンサーが配置され、来店客の行動を把握して自動記録。客が商品を持ち帰る際に自動精算できるのです。

 リアルなスーパーマーケットであるウォルマートもDXでビジネスを伸ばしています。米国におけるEコマースの事業者シェアはアマゾンが断トツですが、2位はウォルマート。強いのは食品分野で通販事業の成長スピードはアマゾンをしのぎます。そもそも食品は単価が低いわりにかさばり送料が高くなりがちで、ECに乗りにくいとされてきました。ウォルマートがこの壁を乗り越えられた秘密がBOPISです。

 オンラインで買い物し、店舗で受け取るバイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストアです。ウォルマートのリアル店舗内にはスマホを使って商品を受け取れるロッカーがあり、店外のドライブスルーで商品を受け取れる店舗もあります。ウォルマートはこのシステムへ積極投資してきており、コロナ禍で高まった人々の外出忌避志向と合わさり、ビジネスを大きく伸ばしました。

アフターコロナに欠かせないDX活用

 DXなんて大企業の話と考えるのは大間違いです。アフターコロナの時代は中小企業であれ何の業種であれ、ビジネスを伸ばそうと考えたら一番注目しなければならないポイントです。

 キーワードは顧客に負担させていた外部コストの削減です。分かりやすく言えば、顧客に我慢させ顧客に負担させていたコストをDXで取り除くこと。例えば行列を作らせる店は、客に我慢させることでレジの効率化や、飲食店の場合は席の準備時間を、客の時間コストを使って手に入れていたわけです。これをオンライン予約で待ち時間をなくし外部コストを削減する。

 旅行業で考えてみましょう。例えばバス旅行。途中の立ち寄りスポットで集合時間に戻らない参加者がいる。皆が待機しなければならない。これをスマホのGPS機能を使って所在確認できるようにすれば、集合時間に戻らない人を残して出発し戻らなかった人に別対応することも可能。全体の時間効率は上がります。旅行業の運営管理の仕方も変わり、サービスの中身も変わります。

 いままでなかったサービスも考案できます。たとえばドローンの活用。旅行参加者の集合写真を普通に撮っても喜ばれませんが、ドローンを使ったらどうでしょう。記念写真をこれまでになかったアングルで撮ればビジネスにつながります。

 中小企業が利用できる外部サービスもどんどん増えています。例えばグーグルカレンダー。スケジュールに同期する機能があり、旅行の管理プロセスに活用できます。最近流行りの声のSNSクラブハウスは団体旅行の観光案内に使えるかもしれない。DXの工夫の余地はこれまでになく広がりつつあります。顧客への郵送書類をスマホに代えるだけでもビジネス強化になります。働き方改革にもつながります。雑用や雑務に追われる社員の負担を軽減する。そしてDXによって破壊的創造に取り組む。これまで考えられなかったような新しい何かを生む。何が人々に刺さり、何が成功するかはまだ分かりませんが、破壊的に新しいものを創造することに注目していくのです。

 ウィズコロナ時代には客数は減少し、客単価も下がる。その中で売り上げを増やす方程式は使用回数を増やすことと新たな収入を加えることです。そのためにDXをどう使うか。そこがこれから旅行業の経営者に問われるところです。

すずき・たかひろ●東京大学工学部卒業。ボストンコンサルティンググループ等を経て03年に独立。未来予測の専門家で20年代に起きる経済の大変化に警鐘を鳴らす。著書に『日本経済予言の書』(PHP)など。