三国志に学ぶ

2021.04.26 08:00

 生きていれば年を取る。年を取れば経験を積み、失敗も減る。一方で過去の成功体験にとらわれ、新しい一歩をためらいがちになる。となれば、人としての成長は止まる。最後まで学ぶことをやめず、挑戦を続けた者だけが、大業を為すといえよう。だが、そうと分かっていても、なかなか実現が難しい。人生とは、経営とは、かくも険しき道といえる。

 そういう意味で、中国伝統の歴史書「三国志」と小説版の「三国志演義」は登場人物も多彩でユニークだ。楽しみながら現代社会や経済でも十分に役立つ逸話にあふれる。国内外で数々の映画、アニメ、小説、TVドラマ等の題材となり、「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」「兵は神速を尊ぶ」など、現代のビジネスでも実践に使える古事成語も数多くあって、いまだに実質ベストセラーの名著といえるだろう。

 史実そのものは1800年近く昔の話でありながら、いまに通じる部分がかくもたくさんあると思わせてくれる。それは、何が正しい・悪いでもなく、勝てば官軍、策略は兵法の常など、太古の昔から何ひとつ世の原理原則は変わらないという思いにさせてくれるからだ。せっかくならこの壮大な史実から少し学んでみたい。

 私が就職活動をしていた頃は銀行・商社が1番人気であった。その前後で、旅行業が人気だった時代もきっとあっただろう。私自身は将来自ら旅行業に関わることになろうとは当時考えもしなかった。ただ、世界を飛び回り、見識を広め、この目で現地現物を見れば、何か得られるはず。そう漫然に思っていただけだった。

 旅行業の未来は決して明るいとはいえない。以前は大きな資産と思えたリアルな財や資源が、いまは逆にビジネスの重荷となりつつある。であれば思い切って捨てればよい。覇を唱えたあの曹操でさえ、逆境にあっては兵馬の荷物を打ち捨てて逃げ延びたのだ。生き残るには取捨選択を間違ってはいけないという例だ。

 機敏、すなわち「機をみるに敏なり」とは、あの諸葛亮(孔明)をも最終的には打ち負かした司馬懿(仲達)の名言だ。いくら策略に長けていても、数少ない勝機を逃せばなんの意味もない。特に現代は超スピード時代。1年といわず、1カ月の遅れが致命傷ともなる。勝負するタイミングを逃してならない。

 私見だが、旅行業が低迷しているのは、コロナのせいだけではないだろう。それはほぼ全産業に影響を与えており、旅行業だけが犠牲になったわけではないからだ。むしろ低迷の理由の本質は、過去においてただ他社の売れ筋の模倣に走り、市場・商品の創造というもっとも大事な仕事をなおざりにしてきた結果、民意ならぬ市場の失望を誘ったからではないのか。無敵の猛将、関羽がまさかの敗北と自らの死を喫することになったのは、やはり成功からくる慢心と油断が原因であったはずだ。

 旅行業の法体系もかなり古い。というより、すでにもう、まったくといっていいほど、無意味なものに成り下がっている。にもかかわらず、形式を重んじる日本の文化の1つの象徴ともいうべき存在だ。一方、オーストラリアはすでに遠い昔に同国のそれを放棄、すなわち旅行業免許を不要とし、誰でも旅行商売ができるようにした。その理由はOTA(オンライン旅行会社)の存在だった。

 政府の通達にもはっきりそう書いてあったのが記憶に新しい。よくぞ思い切った。さすがだ。同じ土俵で全員が戦えるよう、大所高所から機敏なる政策を実施、日本もかくありたい。わが国にも現代版の孔明や仲達が出ることを願う。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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