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『配膳さんという仕事』 おもてなしのプロに学ぶ

2021年4月26日 12:00 AM

笠井一子著/平凡社刊/2420円

 「配膳さん」という仕事をご存じだろうか。字面だけだと旅館や料亭の仲居さん的なお仕事という気もするが、実はこれ「京都にだけ」存在した、「男性だけ」が就ける仕事なのだ。

 明治の末ごろから登場し、高度経済成長とともに盛んになったが、大規模な集まりが少なくなった現在、出会う機会はほぼなくなった配膳さん。彼らを取材した20年ほど前の雑誌企画を改訂したのが今回の本だ。

 配膳さんは紋付袴のいでたちで宴会や婚礼、茶会、法事、開店祝いなど人が集まるところに現れ、行事の段取りから終了まで裏方を取り仕切る。いわば「おもてなしのプロ」だ。器選び、席の配置や装飾のコーディネート、座布団の柄選び、調理場と連携しベストタイミングで料理を運ばせるといった裏方仕事もあれば、お客さまの話し相手、茶会の手伝い、婚礼だと謡曲もこなすなど、表に顔を出す仕事も多い。

 雇用形態は人それぞれで、料亭のお抱え配膳師になることもあれば、フリーランスとしてその都度声がかかった現場に行くことも。後者の場合、毎回違う現場で違う主人に仕え、違うスタッフと共同作業を行う。そんな場を仕切るには器やお茶、お花などの教養、行事への理解はもちろん、人並み以上の現場との調整力や対応力も必須だ。老舗ほど細かいしきたりにこだわる京都でこれを職業にするのは相当大変だし、同時に、そんな席が多い京都だからこそ成り立つ職業だともいえる。

 ルーツは室町時代の将軍の近侍「同朋衆」にまでさかのぼるらしい配膳さん。登場する仕事人たちの哲学、仕事への姿勢などに学ぶことも多く、同時にここで仕事をするヨソ者としてあらためて「京都こわい……」とブルッときてしまう1冊なのだった。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。