酒蔵と観光のマリアージュ 地域のストーリーを進化させるために

2021.04.12 00:00

(C)iStock.com/key05

観光客誘致につながり地域への経済効果も大きいと期待される酒蔵ツーリズム。官民連携による推進が動き始めてから、かれこれ10年になるが、コロナ下でも歩みを止めていない。一方で観光コンテンツへの磨き上げには課題も見える。酒蔵と地域が手を携えて開く未来とは。

 酒蔵ツーリズムへの注目が高まり始めたきっかけは、12年に当時の民主党政権が立ち上げた「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」プロジェクトだ。日本酒や焼酎といったいわゆる國酒を国家戦略に取り上げる必要性について、政府は「地域発・日本再生の救世主としてオールジャパンで日本酒・焼酎の魅力の認知度向上と輸出促進に取り組む時が到来した」と説明している。また、日本酒や焼酎の蔵元は東日本大震災の被災地を含む全国に存在し、昔から地域の活力を担うキーパーソンだったことも地域発・日本再生の担い手としてふさわしいとしている。

 それからの約10年を通じて徐々にこうした考えの認知が広がり、官民の取り組みも進化してきた。自民党への政権交代後も成長戦略の一角に位置づけられ、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(13年1月閣議決定)では日本産酒類の総合的な輸出環境整備が掲げられた。ここまでは主として日本産酒類の輸出促進が中心の考え方だった。しかし、訪日外国人旅行者に向けて日本産酒類の魅力を紹介することが海外における日本産酒類の認知度向上、ひいては輸出促進につながるとの気づきによって始まったのが酒蔵ツーリズムだ。

 13年には観光庁が中心となり酒蔵ツーリズム推進協議会を設立。同協議会が母体となって16年には自治体や旅行会社なども参画した日本酒蔵ツーリズム推進協議会が立ち上がった。

 酒類製造事業を管理・監督する国税庁も、ツーリズムの力を借りた日本産酒類の認知度向上や酒蔵への経済効果の観点から、酒蔵ツーリズムに着目し積極的に促進。17年には訪日外国人が購入する酒類にかかる酒税を免除する制度を導入した。さらに20年度予算では酒蔵ツーリズム推進事業を実施している。同事業は、訪日外国人が増加しているなか、酒蔵ツーリズムを通じて日本産酒類の魅力を体感してもらうと同時に、購入促進を図り地域活性化や輸出促進につなげられるようモデル事例をつくるのが目的。酒蔵だけでなく観光事業者や交通機関、自治体等の関係者が連携して積極的に酒蔵ツーリズムを進めている地域を公募・選定し、各種支援を提供する。そこで得られた酒蔵ツーリズム成功のための知見や課題、旅行者の購買情報などを取りまとめて公表し、業界全体の酒蔵ツーリズム推進につなげたい考えだ。

 3月4日に日本酒蔵ツーリズム推進協議会がオンラインで開催したセミナーで、国税庁酒税課輸出促進室の松井誠二室長は「酒蔵ツーリズムは現在、コロナ禍の影響で状況は厳しいが、アフターコロナを見据えて促進に取り組む」と方針を示し、20年度予算で実施の酒蔵ツーリズム推進事業について、3次補正予算で支援対象を拡大したことを説明した。さらに「21年度も予算を確保し、新たな補助金交付事業も開始する」と、酒蔵ツーリズムに継続的に取り組んでいく姿勢を強調した。

 国税庁が20年度予算で実施した酒蔵ツーリズム推進事業では16件が選定された。地域DMO主体のものから、酒造メーカー単独の取り組みや、航空会社や旅行会社が主体となって具体化したものなどまでバラエティーに富んでいる。加えて3次補正予算で6件を追加で選定している。

 21年度予算で新たに設けられたのが日本産酒類海外展開支援事業費補助金(ブランド化・ツーリズム補助金)で、予算額は7億円。酒類事業者による酒蔵ツーリズムプランの策定や他産業との連携を支援するのが目的だ。対象は酒類事業者または酒類事業者を1者以上含むグループ。補助内容は販促活動等に関連する通訳や翻訳費、資料購入費、展示会等出展費などで、1件当たり1000万円を上限に補助対象経費の2分の1を補助する。公募を経て、4月中旬には選定結果を公表する予定だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年4月12日号で】

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