理想と現実

2021.04.12 08:00

 20年7月に容器包装リサイクル法の省令が改正され、レジ袋有料化が義務化された。消費者の立場では「環境を守るためには仕方ない」などの意見が多く、むしろ「事業者はレジ袋を販売できるようになり大儲け。業界利権だ」という声もあったが、実際にどういう影響があっただろうか。代表的な5点を振り返る。

 まず、「店員のレジ対応時間が増えた」。「レジ袋は有料になります」「いりません」。こんな単純なやりとりでも数秒かかる。やりとりを4秒で収めたとしても、1000人のレジ客数なら1時間以上の人件費増だ。レジ前で悩む利用客や、商品をマイバッグに詰める利用客のロス時間などを考えると影響はさらに大きいだろう。

 次は「客が手に持てる分しか買わなくなり売り上げ減になる」という仮説だ。明確なデータの公表はないが、知人のコンビニ経営者によると平均購入点数は確かに下がっているようだ。自身も両手に持てる点数以上の「ついで買い」が明らかに減った。

 3つ目は「盗難が増えた」。これは多くのニュース記事が見つかるので恐らく全国的な傾向だろう。さまざまな形状の袋で店を出入りし、商品をそのまま持ち出したりしているのだから、第三者から見て購入されたものかどうか万引きかの判別は難しくなった。

 4つ目は「市販のレジ袋を買う人が増えた」。有料化当時、100均ショップなどで市販の袋が品薄になったと話題になった。家庭ではレジ袋が活用されていたのだ。メーカーによってはレジ袋を増産しているところすらあるという。

 最後は「路上のゴミが増えた」。これまで食べ終わった容器や残り物をレジ袋に入れてゴミ箱まで運んでいた人たちの一部が食べ終わった容器をそのまま置き去りにして、公園の清掃担当者が困っているとの声があった。

 まとめると、社会に出回るレジ袋は減らず、手間やコストばかり増大したのだから有料化の意義が見いだせない。筆者は環境問題を軽視して良いとは考えていないが、ここまで理想と現実が食い違うということは制度設計に実務者の目線がなかったことの表れだろう。コロナ禍において飲食業界が苦境に陥り、各省庁が全力で経済対策に乗り出すタイミングでの「空気の読めなさ」「縦割りの弊害」も露呈した。

 さらに次の話も進んでいる。プラスチック資源循環促進法案により使い捨てスプーンやフォークの有料化が検討されている。飲食店が新規事業として乗り出したテイクアウトや医療現場など、現在コロナ対策に苦慮している業種を直撃するものだ。

 大きな変化としては消費税の総額表示化も始まった。ファーストリテイリングが運営するユニクロなどは消費税分値下げを実行した。表示が変わるだけでも980円(税別)と1078円(税込)では消費者の購買意欲は大きく変わる。デフレの進行に拍車がかかり、中小事業者の業績回復時期はさらに遠ざかる。

 飲食店には6月に迫るHACCP(ハサップ)の完全義務化も追い打ちをかける。衛生管理の強化は必要だが、飲食店が営業すらままならない時期での強制は、コンプライアンスを重視し真面目に経営する飲食店には不条理なほどの打撃だ。ただでさえ先の見えないなか、廃業を決断させる大きな要素にもなり得る。

 一つ一つは良い政策で、各省庁でしっかり練られた法でも、現場感覚のないままタイミングを間違えて実行されては国民を混乱させるだけになる。われわれの生の声が届いていない事案はまだまだたくさんあるはずだ。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社後、ゆのごう美春閣M&Aをはじめ数件の再生案件に関わる。日本旅館協会副会長、元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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