2021年4月5日 12:00 AM
いよいよ日本でも4月から高齢者へのワクチン接種が始まる。先行する国々では、ワクチン接種をきっかけに旅行需要が急増する事例も出てきた。ワクチン接種がコロナ禍を変えるゲームチェンジャーとなってくれるのだろうか。
長い長いトンネルの向こうに、ようやく出口の明るみが見えてきた。JATA(日本旅行業協会)が2月26日に開催した経営フォーラムの基調講演で未来予測の専門家である鈴木貴博氏は、「コロナ禍の医療崩壊リスクは5月で終わり、この問題は医療問題から経済問題へと移る」と明言した。そう説く理由の1つは、言うまでもなくワクチン接種のスタートだ。そして注目すべきは、医療問題が経済問題へ変わっていくという指摘だろう。
新型コロナウイルスの感染拡大という医療問題に対しては観光・旅行業界はなすすべがなく、黙って状況の変化を見つめ続けるしかなかった。しかし、これが経済問題へと移行すれば、やりようはある。過重な重荷を背負った上ではあるものの、工夫と努力の余地はあるということだ。そのための準備を始めることができる。
いずれにせよ、ワクチン接種が消費者のマインドを変え、コロナ禍で光を失ってしまった世界の見え方を変えてくれることは間違いない。
新型コロナウイルスのワクチンが日本でも承認され、2月から医療従事者への先行的接種が進んでいる。そして4月からは一部の市町村で65歳以上の高齢者への接種が始まる予定だ。厚生労働省によれば、22年2月末までにすべての国民への接種を終了する計画だ。
もちろん、ワクチン接種の開始と経済回復の歩みにはタイムラグがあり、観光・旅行需要についてもワクチン接種開始がイコール需要回復の始まりではないだろう。警戒心をすぐには解けない消費者もいるし、コロナ禍を経て永遠に戻りそうにない観光・旅行需要についてもあると考えられる。インバウンドはワクチン接種の先行国や日本だけでなく、世界中の国々でワクチン接種と集団免疫の獲得が進まなければ本格的な回復は困難だ。それでもワクチン接種の開始が消費者心理に与える影響は大きいと思われる。
実際に昨年12月からワクチン接種が始まった英国では、65歳以上による春夏の旅行予約が殺到したと報告されている。英国のバス旅行大手ナショナル・エクスプレスによれば、同社のバス旅行部門では、21年春夏の予約が前年比で185%増加したと公表。一部は昨年から持ち越された延期需要だが、ワクチン接種を受けて新たに旅行意欲をかき立てられた需要も含まれるとの見解も合わせて発表している。
コロナ禍で壊滅的なダメージを受けた観光・旅行業界にとって、ワクチン接種の開始はゲームチェンジャーになるとの期待が高まる。米国ではIT企業を含む医療技術業界が、ワクチン接種プログラムVCI(Vaccination Credential Initiative)の立ち上げを発表。その発表の中で、VCIにマイクロソフトやセールスフォースなどど共に参画するオラクルのグローバル・ビジネス・ユニットのマイク・シシリア上級副社長は「世界がパンデミックから立ち直ろうとしているいま、ワクチン接種や検査結果などの医療記録の電子化は、旅行を含む日常生活を再開するために欠かせない」と述べている。
シシリア上級副社長が指摘するとおり、ワクチン接種の実施だけではなく、接種証明の発行とそのデジタル化は経済活動の回復や観光・旅行需要の回復にとって極めて重要だ。
欧州連合(EU)は夏の旅行シーズンを前に加盟国共通のワクチン接種証明書の発行を検討している。カンタス航空のアラン・ジョイスCEOは国境再開を見据え、国際線の搭乗にはワクチン接種証明が必要になるとの見解を示しており、ワクチンパスポートの構想を示している。IATA(国際航空運送協会)もトラベルパスのアイデアを提案しており、ワクチン接種を済ませた個人に証明書を発行する仕組みと航空業界との連携を検討している。
【続きは週刊トラベルジャーナル21年4月5日号で】[1]
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