『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』 旨いものもまずいものも独自に表現

2021.03.29 00:00

高野秀行著/文春文庫/900円+税

 ソマリランドを歩いていたと思ったら、次は世界の納豆を探求していた。ご自身が掲げる「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」というポリシーどおり、高野秀行さんの行動は予測がつかないし、「高野さんみたいなことをしている人」も見たことがない。

 そのせいかもしれないが、高野さんは物事の説明がすごく上手だ。何度かお会いしたことがあるが、何をどんな角度で聞いてもちゃんと説明してくれるので、非常にすっきりする。先日は「日本酒が旨いとは、なにが旨いのか」という下戸(私)の長年の疑問に初めて明快な説明を得て感動した。

 相手が知らない事をわかりやすく説明する。なぜならわかってほしいから。長年それをやり続けていた説明の達人(?)が、各地で出合った、こっちが聞いたこともない食べ物を紹介してくれるのだから、面白くないわけがない。

 そんなに胃腸が強くないが「地元の人が食べていたら大丈夫」という独自の安全基準の下、食するのはゴリラ、サルの脳味噌、イモムシ、アリ……。

 「無理」

 ここで諦めないでほしい。確かに無理めの食材やマズそうなものもあるが、パキスタンの密造酒や中国のアヒルのビール炒め、コソボのフリアなどちょっと食べてみたい味も次々登場。調理風景も面白い(快調に読み進んでいたら、「ちゅ〜る」が出てきて笑ったが)。旨いものもまずいものも自分の言葉と感覚で伝えようとする姿勢は、別角度だが東海林さだお氏を思い出させる。

 尽きない好奇心と実際を確かめたいという探究心、そして人に伝えねばというジャーナリスト魂。トンデモなようで実は正統派なノンフィクション作家、高野秀行氏の味が詰まった1冊だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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