Travel Journal Online

一発逆転

2021年3月29日 8:00 AM

 日本経済に大きく貢献してくれていたインバウンドが消滅した。恐らく今年も戻らない。復活が期待できるためにはワクチンが世界に行き渡ることが必須で、早くても来年以降とみるのが安全だろう。年初の箱根マラソンで復路最終区に大逆転劇があったのは記憶に新しい。野球も9回2アウトからといわれる。つまり一発逆転だ。いまの旅行業が狙うのもこの境地だと思う。どのタイミングで何をどうすればそれが可能となるのか、具体的に考察してみたい。

 コロナ前とコロナ後では消費者心理が一変してしまった。以前は当たり前だったことがいまは違う。政府の金融政策のおかげで、投資サイドでは世界的にもバブル傾向は顕著にあるといえるものの、肝心の消費サイドは相当財布のひもが固い。閉店間際のスーパーに行けば、値引シールをいまかいまかと待つ怖いぐらいの真剣なまなざしが顕著に世相を物語る。

 旅行とは何か。その定義も根底から見直した方がいい。私はそう強く意識している。時間をかけて、お金をためて、いざ行こう、というのがこれまでの旅行だった。そういう旅行の仕方が復活するまでは相当の時間がかかるだろう。行きたくても行けないところが多すぎるからだ。

 少なくともいま考えるべき旅行業のあり方は、次の3つだと考える。まず、過去の夢(インバウンド)を捨て去り、新しい顧客層開拓に挑戦(投資)すること。次に遠方客ではなく近郊客を狙うこと(頻度向上)。そして、公共交通機関ではなく自家用車の客を狙うこと。

 まずインバウンドからの脱却。いつかは戻るだろうが、いつかわからないものをあてにする経営は間違いだ。であれば日本人をメインに切り替えつつ、外国人にも受け入れられるコンテンツをいま開発すべきだろう。日本人は実は日本文化をよくわかっていない人が圧倒的に多い。これまでのインバウンドは表面的に文化をみせていた感が否めず、これでは日本人はしらける。

 地元でしか買えない隠れた銘酒、地元でしか食べることができない立派な新鮮素材を格安で買いその場で鉄板焼きにするぜいたくなど、ヒットする商品開発は無限に可能だ。日本人がうなるものは外国人も追随する。和食文化の世界への拡散が実証している。いま欧州では和牛が何倍もの価格で売れている(しかもスペイン産)。

 2つ目の近郊客を狙うことはこれから最も大事なキーワードだ。遠方客は年に何度も来ない。近郊客なら毎月でも来てもらえる。ビジネスでは頻度が商売持続・繁盛の最大の鍵といえる。以前、ゴルフ客は旅行客よりおいしいと話をしたが、それと同じ理屈だ。

 最後の自家用車狙いだが、これは荷物を気にしなくてよい点が大きい。そこが狙い目だ。せっかく来たからには買いたいものは多々ある。が、電車や飛行機ではなかなかあれもこれもとは買えない。車なら多少かさばっても重たくても、いいものなら買ってしまう。

 結論として、近い将来、日本の旅行者も欧米型になると予測する。欧州では旅行=自動車という感覚がある。飛行機や電車も速くて便利なので、目的がはっきりしている時は使うが、ふらっとちょっと隣国まで行ってみようかという時、これは東京の人が伊豆や軽井沢に行くのと同じ感覚でドイツの人はフランスやオランダにふらっとやって来る。フランス人はイタリア・スペインにいつでも行ける。その時、彼らはまず自動車を使う。ふらっと行ってふらっと戻れる距離だからだ。荷物も気にしなくていい。こういうフリースタイル型の旅行がこれからの日本を活性化する。私はここに旅行業の逆転劇を見出そうと思う。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。