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まいまい京都の以倉敬之代表が語るマイクロツーリズムとオンラインツアー

2021年3月15日 12:00 AM

21年度にオンライン形式で再開する旅行産業経営塾は2月6日、オンラインプレ塾fromKANSAIを開催した。京都を中心にユニークなまち歩きツアーを展開するまいまい京都の以倉敬之代表が講師を務め、着地型観光コンテンツで人気を博す秘密や、コロナ禍以降に開始して人気を集めるオンラインツアーの取り組みを紹介した。

 ウィズコロナの時代の観光は、より本質的な力、つまりコンテンツの企画力やファンを作る力が不可欠になるという話を本日はしたいと思います。もちろんこれまでも必要でしたが、より露骨に求められるという意味です。たとえば京都に来る人に何をどう提案するかではなく、それぞれの企画が京都に人を呼ぶ力を持たなくてはウィズコロナ時代の観光を切り拓いていけないということです。

 私は住民が地元をガイドするミニツアー「まいまい京都」の代表を務めています。「まいまい」とは「うろうろ」を意味する京言葉で、道草こそが面白いという思いを込めています。まち歩き人気の火付け役になったNHK番組「ブラタモリ」では私や仲間が京都の案内役を務め、京都や大阪が舞台になる際には番組の企画段階から参加したこともあります。

 ツアーの平均価格は3500円程度。定員は15~20人。1.5~3㎞ほどの距離を3時間程度かけて巡ります。価格的にも時間的にも気軽に参加でき、少人数でじっくり楽しめるのが特徴です。参加者は京都在住者が4割、次いで大阪・兵庫と地元や近隣が中心。1人参加が7割を占めます。

 余談ですが、まいまいで出会って結婚したカップルは10組ほど。他の参加者と仲良くなりやすいツアー環境なのだと思います。ただ1人参加といっても、最初は夫婦で参加して、次からはそれぞれの興味や都合に合わせて1人で参加するケースも少なくありません。

 40代と50代が約3割ずつと、現役世代が主体なので平日より週末の集客が中心です。リピーターが多く1人でこれまでに約400コースに参加したヘビーリピーターもいます。

ガイドの地元愛と仕事愛

 まいまいの一番の売りは住民が務めるガイドの魅力です。ガイドを務める人の本業は建築家や歴史学者、仏像研究者、ライター、カメラマンから庭師、僧侶までさまざま。とにかく自分の仕事や趣味、研究テーマにほれ込んで打ち込み、精力を傾ける姿勢と愛情が共感を呼ぶからです。これまでに累計400人がガイドをしてくれました。私は町の魅力はモノやコトより人にあると考えており、面白い人を発掘するのが一番大切です。

 ガイドは公募等は行わず、すべてこちらから依頼する形です。正直なところ募集では面白くない人も集まってしまう。ですから、常に書籍やSNS、面白そうな学術論文などを読み、あるいは人づてに紹介してもらって、これはという面白い人を見つけてこちらから依頼します。ガイドとしての研修も行わず登録制にもしていない。そもそも面白くない人を研修等で面白くすることはできませんし、付け焼刃の知識では誰の興味も引き付けられません。1回お願いして面白ければ次も依頼する。そうでなければ次はお願いしません。

 ガイド役を選ぶ際に一番重視するのが町への愛情、自分の仕事に対する愛情です。この愛情が参加者に伝播することでツアーが魅力的になり、「面白い」を共有できるツアーになります。ツアー中はガイドレシーバーは使いません。利点もありますが、どうしても参加者とガイドの距離が離れるし、参加者の一体感がなくなり交流もしにくくなるデメリットの方が大きいからです。

 「ブラタモリ」は取り上げた地域の地元視聴率が高い傾向があるとのこと。まいまいの参加者も地元や近隣の住民が中心。「地元に住んでいるが、こんな魅力があるとは気付いていなかった」という感想が多いのも共通するようです。これまでは、なぜそうなっていなかったのか。初めて来る人のために考えられた観光が当たり前になっていて、同じものを売り続けるのが楽だったからでしょう。最近注目のマイクロツアーも地元の人だけ楽しいのでなく、本当に良い内容なら地元の人も遠方から来る人も同じように誰でも楽しいものだからです。

企画はタイトル作りが肝心

 ツアーの企画は、まずは面白い案内役を発掘するガイド探しから始め、タイトル作り、内容・コース作りと進めます。一般的には、まず内容とコースを設定し、タイトルを考え、それに合うガイドを手配するというところが多いですが、われわれのツアー作りの流れとは逆になります。

 ガイド探しと並んで重要なのがタイトル作り。タイトルでガイドと主催者と参加者のマッチングが決まり、集客状況も内容も全く変わってきます。参加者はタイトルで面白そうかどうかを判断します。ですからタイトルだけで内容がイメージでき、ガイドの愛情が伝わることが極めて重要です。もちろん実際のツアー内容と齟齬があってはいけませんが、タイトルだけで面白そうだと感じてもらう。しかも「誰と」「どこへ」行くのか一目で分かる必要がある。そのために何時間もかけて徹底的にタイトルを考え抜きます。

 魅力的なタイトルができた時点では、すでにそのツアーのコンセプトも内容も決まったようなものです。考え抜いたタイトルですから、そこに盛り込めなかった内容は必要ないと判断。タイトルを実現できる内容だけを考えればいいわけです。

 タイトルの重要度が高いまち歩きならではの事情もあります。遠方への宿泊を伴うツアーならば、こんな宿に泊まって、こんな移動手段を使ってなど情報が多いので参加者は内容をイメージしやすい面がある。ところがまち歩きは宿泊施設も交通機関も関係ないので、タイトルで内容を喚起し面白そうだと思わせなければなりません。堅い言葉を避け、できるだけ楽しい言葉に置き換えます。

 最近では水道局や交通局など行政側との共同企画ツアーも手掛けています。通常は入れないインフラ施設や巨大建築物の内側を、担当者の案内で探検気分を味わえるのが人気です。「京都の企業探検ツアー」も人気です。企業や商工会議所などの協力などを得て実施しています。京都には京セラ、堀場製作所、月桂冠などの有名企業も多く人気ツアー分野になっています。

 珍しいところでは、ダークツーリズムと呼ばれるツアーも注目を集めています。たとえば地元の方とともに被差別部落や在日コリアンの方を訪れるツアーなどは話題になりました。

オンラインツアーで窮地脱出

 まいまいは京都のまち歩きからスタートして、大阪や奈良など近畿圏の他地域にも対象地域を広げてきました。ツアーを開始した11年に608人だった参加者は年々右肩上がりで増え、18年には689コースで1万2380人を集め、コロナ禍の影響を受ける前の19年には720コースを催行し、総定員数1万4829人に対して延べ1万3844人が参加。定員稼働率は95%に迫りました。春や秋のオンシーズンには月間売り上げが700万円を超える月も増えていました。

 ところがコロナ禍で20年の売り上げは、4月に150万円台まで低下。ツアーの売り上げがほぼなくなり、売り上げのほぼすべてがその他収入でした。この時点では「どうしよう。この先やっていけるのか」と非常に不安な状態でした。まいまいは多くても20人程度の少人数ですし、屋外を歩き回る内容で密にはならない内容なので、定員制限もせず特別な対応は必要ありませんでしたが、コロナ禍後は外出自体を控える必要があったこともあって参加者がいなくなりました。

 窮地を救ったのがオンラインツアー。通常のツアーより粗利が高く、管理費が少ないことも助かりました。5月には前年の5割程度まで売り上げが回復し、何とか人件費を捻出できる状態となり、7月の売り上げは過去最高を記録しました。

 オンラインツアーはリアルのツアーと同じ内容ではつまらない。オンラインだからこその内容を意識しました。昨年5月に京都・二条城を舞台に実施したライブ配信のオンラインツアー「二条城、史上初!非公開エリアに徹底潜入オンラインツアー~東大手門・東南隅櫓・香雲亭…将軍目線で大広間!所長&各専門家が総力結集~」は、通常立ち入り禁止のエリアに入らせてもらい、これまで絶対に目にすることができなかった大広間の内側からの眺めや、国宝建築の裏側をライブ配信で覗くことができました。

 二条城の大広間は一般観光では廊下から眺めるだけですが、オンラインツアーではカメラを広間の内側に入れ、建築の細かい造作を紹介。将軍だけが座ることが許された上段の間にもカメラが入り、将軍目線で大広間を体験できました。

 このオンラインツアーは700人が視聴し大成功を収め、7月には歴史研究家の磯田道史さんに二条城のガイドをお願いしたコースは900人が視聴しました。その他にも一見さんお断りのお茶屋さんを訪ねたり、紅葉の時期に有名寺を訪れドローン目線の景観も楽しめるコースなど、オンラインツアーならではの企画が人気を集めました。

 ただしオンラインツアーの集客は徐々に落ちる傾向です。リアルの旅行が復活するのに合わせて、需要もリアルに戻りつつあります。それでもオンラインならではの良さもあり、可能性を感じるので今後も残す方針です。

 インバウンドに関しては基本的に対応していません。インバウンドに取り組む意義はあると思いますが、ガイドの魅力を中心に据えるまいまいの特徴を外国からの旅行者に伝えるのは簡単ではないし、言語対応力を含むノウハウがわれわれにはなく難しい。そう考えています。インバウンドとしては、外国人富裕層がツアーを丸ごと買い取って、通訳も自分で手配して、ご夫婦だけの貸し切りで「まいまい京都」を楽しんだ事例はありますが、一般的ではありません。

 われわれとしては、インバウンドの展開よりも、対象地域を日本全国へ広げていくことに関心があります。京都からスタートして近畿圏に対象を広げてきたまいまいですが、今後は全国で協力事業者を募っていけたらと考えています。

いくら・たかゆき●御用庭師や考古学者、鉄道フリークなど400人を超えるバラエティー豊かなガイドと共に年間700コースのまち歩きツアーを開催する。NHK「ブラタモリ」京都清水編・御所編に出演。共著に『あたらしい「路上」のつくり方』。