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『ポスト・オーバーツーリズム 界隈を再生する観光戦略』 コロナ禍後の観光産業に警鐘

2021年3月15日 12:00 AM

阿部大輔編著/石本東生・江口久美・岡村祐・西川亮・沼田壮人・後藤健太郎著/学芸出版社刊/2500円+税

 オーバーツーリズム?

 ああ、そんな言葉もあったわねえ。

 がらんとした祇園界隈を散歩していると、あの混雑っぷりはもしかして夢だったのではと思いたくもなる。

 が、特に昨年秋のGoToトラベルキャンペーンもたけなわの時期、京都は再び観光客であふれ返った。人気の店は大行列、バスも混み合い、宿のゲストは現地ツアー会社の不手際で観光船に積み残されたと怒って帰ってきた。

 ザ・元のもくあみ。

 あれだけ問題になっていたのに、京都はなんにも変わっていなかった。京都市長は財政非常事態を宣言し、ギリギリの財政状況を保たせていたのは観光産業だったのだと市民は思い知った。

 やがて必ずやってくる観光の回復期にわれわれは何をしておくべきなのだろう。昨秋の京都を見ていると、うっかりするとガツガツと集客に走ってしまいそうな予感もする。

 と、いうわけで、本書である。

 観光や政策の専門家7人が国内外8都市の動きと政策的対応を取材し、コロナ禍後の観光の可能性を考察した1冊だ。日本の観光史、ベニス、バルセロナなど観光都市の取り組み、そしてわが京都の現状など、豊富なデータと専門家による分析は示唆に富む。

 特に印象に残ったのは、最終章に書かれていた、観光産業は訪問先の地域資源にフリーライド(ただ乗り)することで成り立っている、という指摘。公共財の維持管理にはコストもかけず環境を破壊し、場合によっては税金も回避する。これが続くわけがない。目下、産業として大ピンチを迎えているのは間違いないが、その先のことも見据えて動かないと、今度こそ観光産業の息の根が止まってしまう。そんな危機感を共有させてくれる1冊だった。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。