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国籍が曖昧な航空会社の苦難

2021年2月1日 12:00 AM

 現在のようにグローバル経済の時代には会社の国籍は重要ではない。事業が設立されたある国から別の国に移り、3番目の国の証券取引所で上場、主要な取引は4番目の国になることもある。しかし事業がうまくいかなくなって政府に救済を求める必要が生じた時は国籍が重要になる。その問題に気が付いたノルウェー・エアシャトル(NAS)の現状について、英フィナンシャルタイムズは以下のように報じている。

 NASは約30年前にノルウェーの地域航空として始まった。LCCとしてスカンジナビア航空(SAS)に挑戦し、欧州の多くの地でライアンエアーとイージージェットのライバルとして歩み出した。コスト高、労働組合の強いノルウェーはLCCに理想的な国ではない。そこでオペレーションと航空機の購入調達の目的でアイルランドと英国で子会社を設立、スペイン、デンマーク、スウェーデンなどにスタッフを配置した。

 これまでLCCが成功したことのない魅力的な大西洋線市場に進出を試み、同時にアルゼンチンで地域航空を始めた。間もなくライバル、アナリスト、銀行はNASの急速な拡大が負債の急激な増加を伴っていると予測した。同社は欧州の最も借金の多い航空会社の1つとしてコロナパンデミックに突入して、ノルウェー政府の救済策にもかかわらず、この冬を生き残ることが難しいという課題が明白になった。

 ノルウェーから旅行する多くの人はSAS独占時代と高い航空運賃の記憶が残っている。しかしノルウェーの政治家は、NASが高負債を抱えているだけでなく、ノルウェーの航空会社という救済に十分な資格があるのかという疑問を持っており、さらなる同社支援には乗り気でない。反対派の政治家は「名前はノルウェーだが、乗組員はデンマーク人、スペイン人、英国人だ。われわれがノルウェーの名称があるだけで支援しなければならないのか」と述べた。政府は2度目の救済の十分な資格はないという結論に達した。

 しかしその1週間後、アイルランドの裁判官はNASに同社のアイルランド籍の正当性を説明するように求めた。弁護士は英国とアイルランドから米国に就航していたノルウェー・エア・インターナショナルとアークティック・アビエ―ション・アセットがアイルランドに本拠を置いていることを指摘。裁判所は納得してアイルランド版の破産法による保護が適用された。1日後に同社はノルウェーの法律で同様に再建を申請した。

 家具、インテリアなどを販売するスウェーデンのイケアも本社はスウェーデンにない。ブランドは国籍に関係ないが、危機に瀕すれば根無し草であることの問題に気が付くかもしれない。エールフランス-KLMなどフラッグキャリアの多くが他国のそれと統合して事実上国籍は不明になっている。

 NASは現在、債務を再構築して航空機を売却、より細身になってより存続能力のある会社として甦る希望をもって冬シーズンを乗り切る時間を得た。一方、NASを支援しなければ航空会社の競争減少につながるという懸念に、ハンガリーのウィズエアーからノルウェー国内を安い運賃で運航する提案が出ている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。