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こころのおくそこ

2021年1月25日 8:00 AM

 大晦日のNHK紅白歌合戦の視聴率は40.3%(関東、第2部)と2年ぶりに40%を超えた。最近ずっと「視聴率低迷」という言葉で片づけられる印象が強かったが今回は違うようだ。国民的グループ、嵐の実質活動最終日という要素もあったが、カウントダウンイベントや初詣へ出かけようとする動きが封じられたことも大きな要因だろう。

 ちなみに1年前、20年正月三が日の成田山の初詣客は過去最高。今年は門を閉じた明治神宮をはじめ、分散参拝を呼びかける寺社が多数。かつて鉄道現場を束ねる仕事をしていた時、終夜運転や初日の出号の対応に追われる駅を順番に訪れては社員を労い、新年を迎えるのが私の大晦日のルーティンだった。もちろんそれもない。

 箱根駅伝は1987年の中継開始以来過去最高の視聴率(33.7%、復路)となり、昨年話題のドラマ「半沢直樹」最終回(32.7%)を超えた。最終区での首位交代など目の離せない展開もあるが、沿道での応援は自粛するよう繰り返し流れていたから仕方なくテレビ観戦を選択した人も少なくないだろう。外出とテレビはマッチポンプの関係にある。そして誰もが見るものをみんなで見る。

 われわれ広告業界に視聴率は極めてセンシティブな数字だ。視聴率1%は約100万人強の視聴に値する。テレビの現場が数字に躍起になり、少しでも多くの視聴者にわずか15秒、30秒のCMで企業名や商品名を擦り込むことに広告マンが知恵を絞る、そんな時代がテレビが登場してからの約100年間続いてきた。

 ちなみに視聴率を弾き出すサンプル数、実は長いことわずか900世帯(関東地区)。無作為に抽出された家庭のテレビのモニタリングから推計し弾き出されていた。でも、家族揃って同じ番組を見るとは限らないし、複数の番組を録画して見る人もいる。実態を正確に表しているのか。

 そんな広告主の素朴な疑問に応えるため、サンプル数は2700世帯になり、世帯だけでなく個人ごと、録画して7日以内に見たタイムシフト導入など、数字の取り方も進化している。いまでは「テレビを見ていない人」を特定し彼らのスマホにウェブ広告を配信したり、視聴データとスマホの位置情報や個人の趣味嗜好などさまざまなデータを組み合わせピンポイントに広告をターゲティングし送信する手法も一般化してきた。

 再び緊急事態宣言が発令され、テレワークの窮屈な日々。飲みにも行けず、旅にも出られず、結果的にテレビやネットに向き合う時間が増えている人は多いだろう。そこに容赦なく流れてくる根拠に乏しい情報やセンセーショナルな言葉は果たしてあなたの本心に添うものだろうか。イエスかノー、マルかバツ、そんなことでは言い表せない、人の気持ちはもっと複雑なもの。でもそんな複雑さを回避するために、あえて白か黒かを選ばされてはいないだろうか。

 ネットでは自分が見たいカテゴリーに情報は自動的にチューニングされていく。米国などと異なり多チャンネル化が進まなかった日本で、ながらで見るTVはどのチャンネルも似たり寄ったり。そんな状態でもあなたの行動は、知らないうちに誰かの何かの理屈や言い訳に使われる1つのデータの構成要因になっている。

 旅に出たい、地域と交流したい、人と会いたい、でもできない。このままでは地域経済が崩壊する、旅の本来の意味と価値が失われる。声を上げたいけど叩かれるかもしれない。あなたの深層心理(こころのおくそこ)はそんなに単純でないはずだ。そしてそれはゼロイチのデジタルで把握するのが最も苦手な領域だ。

 データにならない、本当の思いをいまこそ何かの形で示そう。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役営業本部長 チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。