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ワクチン接種義務は得策なのか

2021年1月18日 12:00 AM

 これは旅行業も無関係ではない。昨年末、カンタス航空のアラン・ジョイスCEOは、航空産業はワクチン接種をしなければ乗機させない施策を検討すべきだ、と豪州のテレビで宣言した。彼は「国際旅客に対して乗機前にワクチン接種を求めるよう約款の変更を検討中」とし、この義務は国際的に当然になると信じていると述べた。この発言でSNSは大炎上した。世界で開発中のワクチン接種への反対派は米国で42%(11月ギャロップ調査)、欧州でも反対者は多い。もっとも急速に開発されたワクチンは人類未体験の新しい技術もあり、副作用がないと確認するまで接種しない人は少なくないが、それは慎重なだけで真の反対ではない。

 フィナンシャルタイムズにこの問題に関する論評がある。社会心理学的分析もあるが、要旨は以下の通りだ。ワクチン肯定派は、人間がリスク制御のために創出した科学的な技術や制度より自然力は危険であるという信念に基づく。一方、反対派の怖れは、権力が設定する制度に対する根強い不信から生じる。権力には腐敗の本質があり、抑圧を怖れる人は特定の成果を強力に迫られるほど不信が増す。ワクチン接種の義務付けは不信を強める方向に導きかねない。最悪のシナリオは、偏執症を勢いづかせ、偶発的な安全の見落としや故意の手抜きの疑いを超え陰謀を疑うまで発展することだ。

 現在、ワクチン反対の感情は(ロックダウン反対と同じく)高まりつつあるように見える。科学的根拠のあるワクチンを受け入れる人々は、反対派が無知で利己的な勢力を代表すると考えがちだがそれは正しくない。カンタス航空は潜在的に優勢な前者を背景に、皆にワクチン証明を要求することで問題の解決を難しくしている。

 カンタスの発表はワクチン強制の法的責任に触れていない。モントリオール・コンベンションは輸送条件や国際条約に関して、故意の重大な過失を除いて基本的に航空会社の法的リスクを除外した。多くの航空会社は広く公表されたリスクでは旅客に責任を負わない。法的責任は旅客の身体傷害が予期しない、あるいは異常な事故に関連する時に発生する。

 この点で新型コロナ感染は違うが、運送条件としてワクチン接種を受けることで重大な副作用発生の可能性はある。身体傷害を受けた旅客が航空会社の過失として法的責任を問えるかは難しいが、何らかの責任を負うべきとする意見は、アレルギー成分を公表しないレストランや食材業者が有害な症状が発生した時に負う責任と理屈は同じだ。

 また、航空会社が結核ではなく新型コロナワクチン接種だけ確認を求めることにも疑問がある。結核で19年に140万人が死亡し、感染性としてコロナと同じように会話、せき、歌で広がる。

 現在、新型コロナの撲滅と社会的な団結維持の両面で重要な時期にあり、ワクチン接種は公的義務として強制でなく自主性に重点を置くべきだ。カンタス航空は営利的判断で既述の施策を選択したが、自主的なワクチン受け入れの結果が分かるまで義務的なワクチン接種は賢明でないだろう。ワクチンの副作用が怖い人は、しばらく接種を待つほうがよい。科学者は60~80%の人が接種を受け入れるなら集団免疫に達すると言っている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。