Travel Journal Online

ツーリズムとDXの現状

2021年1月4日 12:00 AM

 米国のツーリズムビジネスサイトとアマゾン傘下のアマゾンウェブサービス(AWS)が共同で世界中の1000社ほどの経営者に、コロナ下の1年がツーリズム関連企業の経営、とりわけDX(デジタルトランスフォーメーション)にどのような影響を与えたかを調査した結果が発表された。対象は航空会社、OTA、宿泊施設、レストラン、カジノや観光局などで欧州、北米、アジア太平洋中心に全世界に及ぶ。回答者の36%がソフトウエアやハードウエアへの投資権限を有し、26%がその選定にあたる。レポートの一部を紹介したい。

 旅行産業は1990年代からオンライン販売を始めておりDXにつながりが強い。しかし現状を見ると他産業に比べマーケティング、オペレーション、顧客サービス、利益管理等の分野でDXへの取り組みが進んでいるとは言い難いとレポートはしている。

 レポートは特に重要な分野を4つ挙げる。第1にDXにより発生する膨大なデータ群の集約・整理・分析で、とりわけいろいろな分野の決定権者がデータを共有することが必須とする。第2にDXに対応できる人材の育成と採用が重要で、他産業との競合を覚悟する必要がある。続いて顧客との長期的な信頼関係を構築するためにDXが不可欠とされる。最後にハード面でもソフト面でも日進月歩のデジタル時代において、古いシステムに依存し続けることの不利益を認識し変革をいとわないことの重要性を挙げている。

 当然ほとんどの回答者はコロナがDX計画推進に大きな影響を与えたとしているが、コロナによりDX推進の重要性が大きく高まったとしたのが43%、ある程度高まったが35%となっている。さまざまな障害も報告されている。1つは世界中に同一のDXを行き渡らせる困難さで、次にシステム技術やテクノロジーの発展スピードがすさまじく進歩についていくのが大変難しいことが挙げられる。さらにさまざまな既存の独立システムが存在し一体化が困難という意見も目立った。

 20年のそれぞれの組織のDXに関わる主要目標を聞いたところ、トップはデータ分析機能(43%)、次いで顧客サービス関連(42%)、そしてEコマース(41%)と並んだ。個々の顧客に関わるデータの収集・分析・活用の重要性が広く共有されていることがわかる。一方で今後その点で重要性を増すと思われる機械学習(マシンラーニング)やAIのポイントが23%と低いことが気になる。

 AWSはクラウドビジネスを担う企業で、マイクロソフトを引き離し世界のトップシェアを握っている。レポートでもかなりの部分をツーリズムとクラウドの関係に充てている。クラウドにどんな機能を期待するかという問いに、OTAなどは個人情報などのセキュリティー向上をトップに挙げた。ほとんどの業種で挙げられたのがクラウド活用で事業の柔軟性が高まることとビジネスの増減への対応力の強化だ。クラウドの活用度合いについて、25%の企業がすでにデジタル機能の大半をクラウド上に置いていると答えている。33%は機能の一部に使い、30%はクラウド活用の検討を始めている。

 日本でもDX計画の見直しが進められているであろうが、今後を考えるとクラウドというファクターを無視することはできなそうである。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。