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観光業界キーパーソンの20年振り返りと展望①

2020年12月21日 12:00 AM

トラベルジャーナルが観光業界のキーパーソンに実施した「20年のニュースランキング」についてのアンケートから、自由記述欄の回答を紹介する。ニュースランキングの結果は週刊トラベルジャーナル20年12月21・28日号[1]で。

「インバウンド観光が日本経済の成長戦略のキーワードとなって以来、DMOの設置、文化財の活用、IR誘致など注目すべき政策が掲げられてきたが、担い手の発想、自主性を阻害する規制緩和や世論への配慮によって、スピード、政策内容の切れが鈍い。ツーリズム産業に精通している旅行会社はもっとリスクを取りながら、ツーリズム産業の核となる担い手にならなければならない」

「今年は新型コロナウイルス関連のニュースに尽きるが、そのような中でポストコロナに向けた新しいツーリズムの動きが出てきたことが印象的だった。来年はこれまでのブームにあやかったビジネスを反省し、量より質を重視した持続可能な新たなツーリズムモデルの元年にしたいものだ」

「20年は新型コロナに起因して、そもそもの人々の働き方、また観光産業のビジネスモデル自体を見直すきっかけになった大変記憶に残る年だった。観光にまつわる全体需要減はあくまでも一時的なものと捉えているが、観光自体の中身、タイミング等はこれから大きく変わっていくものと思われる。住む地域や旅行場所、日程などが従来より分散・平準化され、ピークシーズンに頼らない本質的な地域旅行体験を提供したい」

「コロナウイルスの世界的感染拡大は旅行業界にかつてない影響を及ぼし、業界に限らず柔軟に変化できる企業だけが生き残れるとあらためて感じる。とはいえ、強制的なテレワークや地方回帰などをきっかけに新たな動きやサービスが登場したことにも注目している。オンライン旅行やマイクロツーリズムなど、新たなビジネスモデル、イノベーションが生まれるきっかけとなり、観光業はもちろんのこと、各産業は転換を求められている。変化する消費者のライフスタイルとニーズにいかに早く順応し、質を高めたサービスを提供できるかが復活の鍵になると考えられる」

「いままでの日本の観光は文化に関してあまりにも無関心すぎた。世界文化遺産に関しても、これほど多くの登録件数になったにもかかわらず、予算や施策は地方任せで横の連携も取ろうとはしてこなかった。日本遺産に登録されているものに関しても、歴史学の最新の研究を無視したトンデモ歴史に基づいた解説がなされているところもある。文化の真正性に関して、もっと意識していくべきではなかろうか」

「コロナ禍でオンラインによる業務実施が定着。これによって業務旅行の縮小が考えられる。残るはレジャー市場だが、航空企業の大型機削減は世界的な広がりを見せており、今後、航空券単価の高騰が想定される。旅行企業はレジャー市場への依存が進み、同時に仕入れコスト増加に苦しむシナリオも」

「GoToキャンペーンの多額な値引きにより、消費者のサービスに対する価格のバランス感覚が崩れるのは間違いない。そのため、キャンペーン終了後のリバウンドを見越した経営が必要で、キャンペーン中に経営者は次の一手を考える必要がある。キャンペーン中にお越しいただいたお客さまをこの先のリピーターにするには、現時点で期待値以上のサービスを提供する必要があり、国や自治体の補助金に頼らない中長期視野を持った経営者が生き残っていく時代になった。むしろ、そういった経営者が増えることを切に願う」

「GoToがすべてのコロナ対策への不満のぶつけどころとなってしまっているのが気になる。本来、産業の救済であること、なぜいま観光産業を救済しなければならないのかということがまったく説明されていないため、単なる半額キャンペーンによる景気回復策になってしまっている。これにより、観光業界がGoToでもうけたうえにコロナを拡大させたという悪いイメージの業界になってしまうことを懸念する。政府なり、業界トップなりがきちんと説明すべき」

「コロナ禍でシニア層の旅行意欲が低下しているといわれるが、実はこの数年、シニアは減少傾向。その原因の1つとして、デジタル化がある。購買、情報収集などの多くがネットにシフトしたことによって、デジタルに弱いタイプのシニア層の意欲が盛り上がらなくなっている。各社ともデジタル化をいっそう進める方向に動いており、いまさらアナログ化すべしとは思わないが、いかに簡単にデジタルを利用してもらうかということも一緒に考えないと、せっかくまだポテンシャルのあるマーケットを手放すことになる」

「年初には誰もが予想もしなかった新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、すべての旅行が消失してしまうという事態は、戦争を除いて観光産業最大の危機をもたらした。政府主導のGoToトラベルでようやく国内旅行が息を吹き返したが、厳しい状況にあることは変わりない。ニュース事例の中にはGoToトラベルに“翻弄”という言葉が使ってあるが、業界としては翻弄などとは思っていない。誰もが経験したことのない事態の中で政府も本当によくやってくださっていると感謝しかない」

「コロナで大きなダメージを受け、旅行を取り巻くさまざまな環境が激変したが、一方では新たなビジネスが生まれたり、DXが加速したりといった事業の変化も生み出した1年だった。マイクロツーリズムなどというこじんまりしたことではなく、感染拡大防止に最大限の努力をしながら、交通機関も含めた観光業界と日本経済の活性化に向けて、業界が一丸となって取り組んでいければと思う」

「将来的にも同じようなパンデミックが起こりうる可能性を考えると、(ある程度のリスクを背負ってでも)海外旅行に行ってもらう理由・価値を旅行業界全体でしっかりと見極め、訴求していく必要があると感じる」

「多くの業界関係者が指摘するところであろうが、今回のコロナ禍で一気に行き詰まった旧来の旅行業界のビジネススタイルの多くの部分は、コロナが原因となって発生したものではなく、以前から指摘され、幾度となくわれわれ自身が変化の必要性を唱えてきたものである。たまたま今回のコロナが行き詰まりを早めただけのことである。ピンチをチャンスにできるのか、今度こそ業界の真価が問われるとき」

「コロナで始まりコロナで終わる20年の観光業界。インバウンドとアウトバウンドの蒸発、国内旅行の全滅。観光は平和で安全な世界でのみ行われるという言葉どおりの光景を幾度も見てきたが、今回は本当なのだとあらためて体感した。いま、すべての観光ビジネスは形振り構わず、まず生き残ることだけに集中しなくてはならない。生き残ってさえいれば、観光は戻り、新たなステージが必ず訪れるはずだ」

「20年最大のニュースは新型コロナウイルスの世界的な感染拡大である。これによって、多くの学校が今年度実施予定だった修学旅行の取りやめや変更を余儀なくされた。グローバル化への対応として、公立高校にも広がっていた海外修学旅行は実施ゼロとなり、年々増加していた農山漁村での民泊・くらし体験も、受け入れ家庭に高齢者が多いこともあって受け入れ停止となり、激減してしまったことは本当に残念だった。20年はこれまでの修学旅行のあり方が大きく変わっていく転換点となるような年だったのかもしれない」

「新型コロナの影響に尽きる。ただ、それ以前に伝統的旅行会社によるデジタル化への圧倒的な遅れや店舗の存在価値を示せなかったこと、国策にのっとること以外に個社がイノベーションを実現できていなかったことが、一種のツケとして悪影響をより深刻なものとしてしまったと思う」

「今年は新型コロナウイルス感染拡大による旅行業界への影響、東京五輪の延期と、日本中がいままでの生活ができない状態がこんなにも長く続いた経験はない。今後もなくなることのない新型コロナウイルスとどう向き合っていくのかが重要で、新しい旅行のあり方を提案していかなければならないと感じる。日本政府にはワクチンの早期承認、徹底した感染拡大防止策、入国時の緩和措置等を強く求める」

「現下のコロナ禍は観光業界のみならず、すべての業種や世界が初めて経験する事態である。過度な悲観をすることなく、事態終息後の回復を計画すべきだ。人類が集団生活と移動という行為を止めない限り、観光需要は復活するのだから」

「世界が新型コロナウイルスに振り回された1年だったと思う。日本では、ここしばらく続いた訪日外国人の増加、海外旅行の堅調な回復、また日本を含め世界が東京五輪に期待を膨らませていた20年に、世界的な国境閉鎖や世界各地でのロックダウン、航空業界を含め観光関連産業の存続が懸念されるほどの大きな営業赤字など、誰が想像できただろうか。ただ、それをきっかけとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの根本的な構造改革やどこにも行かない旅など、業界全体がいまの時代に合った経営スタイルに生まれ変わる良いきっかけになったのも事実だと思う」

「GoToキャンペーンは混乱はあったが波及効果が大きい施策だと思う。話題性もあった。これをきっかけとして、しっかりと需要回復につなげていきたい」

「世界の歴史を見ると、対細菌戦争であったのにもかかわらず、過去に実害のなかった日本は経験不足により未曽有の災害になってしまったと思う。旅行業界は過去最悪の経験をしているが、アフターコロナに向けて知恵を絞っている姿が見えて期待がわいてくる。たとえば、たくさんのオンラインツアーは今後、ツアーパンフレットや旅行の本などと同様に、実際の旅行の前に使われていくことが常態化されるのではないかと思う」

「ダイヤモンド・プリンセスの衝撃的なニュースがこのコロナ禍の幕開けとなり、クルーズ産業全体が未曽有の大打撃となったことで、旅行業界の中でもクルーズは一番最後の再開というイメージが出来上がってしまった。一方、クルーズにはPCR検査が必須となるなか、コロナ禍では最も安全な旅行形態として社会への理解を促し、業界一丸となってクルーズ復活に向けて尽力したい」

「海外旅行を主に取り扱っている旅行会社も多く、また強みを生かすために専業や専門的な業態で営業をしている旅行会社も多いなか、海外については見通しが立たず急遽国内の取り扱いを開始したり、異業種への出向など旅行以外の業態転換を図ったりと、これまで以上にリスクを分散させる必要性を考えさせられた」

「誰もが想像だにしなかった現実を目の当たりにしている年。この現実をしっかりとすばやく受け止め、自らが変化を遂げることができた者こそが今後の平和産業・旅行業の舵を取っていくきっかけになると確信している。仮にアフターコロナがコロナ禍前と同様に値引き合戦の模様になるならば、この業界の先は暗雲から抜け出せずにさらに衰退すると考えている。いまこそ提供する“旅・旅行”の意味を再度深く掘り下げて考えるべきであり、私たち業界人に与えられたこの試練がコロナ禍での気づき(目覚め)であったと後々に言える日が来ることを切に願っている。さもなければ、GoToトラベルのサポートが終わった時に“おしまいDeath”」

「小売業においては撤退もあったが、国際観光再開に向けて組織を維持し、この機を生かして対応強化に取り組む企業も少なくない。コロナ禍の最も大きな影響は、消費者のライフスタイル・価値観の変化だ。直近の生き残り対策とともに、再開後のビジネスモデル検討が必要だ」

【あわせて読みたい】20年振り返りと展望②[2] 20年振り返りと展望③[3]

Endnotes:
  1. 週刊トラベルジャーナル20年12月21・28日号: https://www.tjnet.co.jp/2020/12/20/contents-63/
  2. 20年振り返りと展望②: https://www.tjnet.co.jp/2020/12/21/2020review2/
  3. 20年振り返りと展望③: https://www.tjnet.co.jp/2020/12/21/2020review3/