Travel Journal Online

温故知新と原点回帰

2020年12月21日 8:00 AM

 論語に「温故而知新」という有名な故事がある。古いが新しい、である。原点回帰とも似ている。民泊の代表格エアビーアンドビーは需要が消費者で供給が事業者という現代の常識を、単純に欲しがる人とそれを出せる人という本来の定義に戻すことでC2Cという新天地を開拓。近々新規株式公開(IPO)も控えますます飛躍が期待される企業となった。

 さて、20年ほど苦しい1年はなかったと感じる方も多いのではないか。そこで21年はどんな1年にすべきか。僭越ながら、ひとつ考察を述べさせていただければと思う。

 業界事情として20年の旅行業は史上最悪の年であった。人々の移動が制限されるという前代未聞の事態に絶望を覚えた。一方でコロナの影響で逆に活況を呈した医薬品やIT業界などもあった。だが、経済は山道と同じで上りもあれば下りもある。はやり廃りは本質論から程遠い。21年を迎えるにあたってはポイントを2つに絞ってみたい。1つ目は業界区分の意義、2つ目は事業目的の見直しだ。

 まず業界区分だが、結論からいえば、いまや何の意味もない。グーグルが予約サービスに公然と参入し、OTA(オンライン旅行会社)さながらの活動をする時代。「誰のために何で役に立つのか」が最大の鍵だろう。つまり垣根にこだわらず、自社の強みにフォーカスし業界転換する。その事例に富士フイルムやシャープがある。それぞれ、カメラメーカー、家電メーカーという枠を超え、自社の本当の強みを分析し、その原点から新機軸を打ち出した。リスクは大きかったはずだが、リスクを取れないものに成功はない。

 そして、会社の目的、つまり何のためにその事業を行うのかだ。人がその会社で働くのは日々の糧となる生活費を稼ぐためだが、生きるためだけに働くというのはいかにも寂しい。であれば、究極、自己の利益追求か、それとも利他のためかである。個人も会社もそこは同じはずだ。

 私自身の結論として、21年、業界垣根はさらになくなり、銀行は早晩なくなるか業態変換を余儀なくされ、旅行業(エージェント業)もそうなる可能性があるとみる。実際に人々の役に立つ、つまり真の価値がなければ存在価値もなく、グーグルまで乗り出してきた旅行業界で果たしてグーグル以上に人々の役に立てるのか。立てるとすればそれはどこか、いま一度真摯に考えるべきだ。

 やや哲学的だが目的は大事である。ゆえに会社定款でも最初に記述がある。誰のためか、何のためか。そのミッションに他人であるお客さまから、しかと共感される部分がなければ企業存続は困難だろう。

 以上を踏まえ21年を占うに、最初に業界の垣根や既得権にしがみつく企業は消えていき、次に利己中心の企業も早晩その存続は危うくなると考える。温故知新に習えば、どんな時代も変わることのない価値観や哲学史観、あるいはエアビーアンドビーや富士フイルムのように、いま一度、自分の真の強みと、何であれば誰よりも一番人々の役に立てるのかに立ち返ることが生き残りの鍵で、それは究極、原点回帰と利他の精神でないだろうか。

 英国による東インド会社に端を発する資本主義誕生から400年。資本家と事業家だけがいい思いをする時代は終わりがくる。いま世界経済は大きな分岐点を迎えている。ネオキャピタリズムとでもいうべき新しい時代の到来の暁には、例えば顧客=主たる株主となる時代が来るはずだと感じている。そんな新しい時代に新しい挑戦をしてみたい。それが私なりの21年に向けた温故知新である。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。