かきかわる

2020.12.14 08:00

 11月の三連休。観光地の賑わいが報じられ、東京発の新幹線が久々に満席とのデータを見ながら効果は余りあるほど大きいと実感するGoToキャンペーン見直しのニュースを見る。

 人は行動を自ら考え、より自身が快適かつ満足できるよう振る舞うものだ。報じられている感染者や重症者のデータと、この瞬間目の前にある旅する人々とそれを迎える観光地のマスク越しの笑顔はあまりにかけ離れている。この半年以上にわたり、マッチポンプを繰り返してきた報道は再び旅と旅する人々を悪者にし始めた。

 すでに世の中は二分化されてしまっている。何かを恐れるあまり、その先に起こるもっと大きな何かに思いを馳せることができないことが、目に見えないウイルス以上に多くの人々を苦しめている。自殺者は過去最悪のペースで増え続け、10月単月でコロナウイルス由来のトータルの死者を上回るそうだ(警視庁仮統計による10月の自殺者数は2153人)。

 チェーン店の居酒屋は大量に店を閉め、航空会社や旅行会社も相次ぎ構造改革に着手する。これまで存在したビジネスの中で、もう二度と取り戻せないものは多数ある。多くの人々がこれまでとは異なる仕事に就かざるを得なくなるだろう。人のみが資源のサービス業の規模は残念ながら縮小せざるを得ない。この10年でモノからコトへの転換が進み、製造業からサービス業への産業構造シフトがそれなりに進んだ日本がこれから失うものは想像以上に大きい。

 もとよりすでに何が失われているのかも誰も把握できないまま時間が過ぎている。ツーリズムは裾野の広い日本の未来を担う成長産業だったのではなかったのか。いつまで携帯会社などが出す「増えた減った」のデータに翻弄されるのだろう。自分たちできちんとデータを取り、失われたもの、失われつつあるもの、それにより旅だけではなく地域の雇用や経済はどう変わったのか、変わるのか。それを自らどんどん発信すべきではないのか。総合産業といいながら、実は総合的に束ねる機関があるようでない観光の脆さは全世界共通。その無力さに愕然とする日々にそろそろ終止符を打たないといけない。

 三連休初日。成田空港周辺を車で走ると道端に多くの小さなバス会社の車庫兼事務所が目についた。多くはインバウンドの拡大やLCCの就航増によりここ最近できた新しい会社だ。中型、大型、連休にもかかわらずどこも真新しいバスが駐車場を埋めたままだ。何もなければオリ・パラが終わり、世界中が注目する中での秋の行楽シーズン、そして3連休。間違いなく観光の主たるプレイヤーだったはずの彼らにただ環境の変化に対応せよ、と言うのはあまりにも酷だ。

 団体から個人へ。言い古されたその言葉もまた、データではなく抽象化されて語られてきた。この動かないバスたちの行きどころはあるのか。運転手たちは、経営者は。バスガイドやCAを夢見て勉強してきた若者は。教育旅行はすべて電車と徒歩にできるのか。初めて日本に来るシニアが対象のインバウンドツアーはすべてFITにできるのか。欲しいときにはもうないことを知るべきだ。

 そして、日本の多くの観光資源へは公共交通機関だけで簡単に行けない。旅行会社に団体ツアー造成を依頼することもできなくなるし、細々残る社員旅行などを受ける会社も人ももうなくなる。彼らを主たる相手にした観光地は、そこにあるお店は、働く人は。こうして想像するまでもなく、日本の観光地図は間違いなく大きく描(か)き変(か)わる。その覚悟を持ち、ペンを執るのは誰なのだろうか。みんなでやるならそれでもいい。ただし手遅れにならないうちに。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役営業本部長 チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。

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