2020年12月14日 12:00 AM
ポストコロナを見据えたインバウンド施策をめぐり、富裕層の誘致に向けた議論が本格化してきた。富裕層はインバウンド消費拡大のための有望市場として注目される。しかし、取り組みが遅れがちだった日本への誘致には課題も少なくない。
政府は訪日富裕層の誘致拡大に本腰を入れる構えで、菅内閣の発足後初となる9月29日の観光戦略実行推進会議でも、有識者から取り組みの重要性が指摘された。A.T.カーニー日本法人の梅澤高明会長は、「ウイズコロナ期には客数を抑える一方で観光収入を上げるために単価を上げる必要がある。今年は国内の富裕層にどれだけ使ってもらえるかが重要だが、来年は国内旅行の商機を海外の富裕層に広げるチャンス」と述べた。
同氏の試算によると、日本市場における富裕層観光のポテンシャルは19年に推計5523億円だったが、5年後の24年には1兆7617億円に達し、5年間で1兆円以上の伸びしろが期待される。30年には3兆円規模の潜在需要があるとも主張している。また、宿泊・移動動線の安全を買える富裕層は国際観光の戻りが早いと予測する。
日本政府観光局(JNTO)が実施した調査によると、欧米5市場(米・英・仏・独・豪)の富裕旅行者(100万円以上消費する者)は同5市場の全海外旅行者数の1%(340万人)だが、消費額では全体(35.8兆円)の13.1%(約4.7兆円)を占める。これは19年の訪日外国人旅行消費額の約4.8兆円に匹敵するスケールだ。しかし、5市場の富裕層のうち、日本が取り込めているのは4万9000人で全体の1.4%にすぎない。つまり、海外富裕層市場のポテンシャルが高い一方で、日本はまだ蚊帳の外の状態だ。だからこそ誘致拡大の余地も大きい。
このような状況を踏まえ、政府は富裕層誘致を強化する方針を打ち出し、今後本格的に誘致戦略を展開していくための第一歩として、「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」を立ち上げた。設立趣旨では、日本が誘致し切れていない、富裕層など上質な観光サービスを求め相応の対価を支払う旅行者の訪日と滞在を促進するための環境整備が急務とうたい、「世界中の旅行者を惹きつける上質な観光体験を実現するための一体的な取り組みを官民挙げて迅速かつ強力に推進することが必要」としている。
委員会は学識経験者や民間の観光事業者ら13人で構成され、富裕層旅行者のニーズ把握と誘致の方向性の見定め、世界レベルの宿泊施設の誘致・整備促進、上質な観光コンテンツの造成、上質な旅行環境を一貫して提供するための施策などを検討する。10月5日に第1回委員会が開催され、来年2月もしくは3月開催の第5回委員会で最終的なマスタープランを取りまとめる予定だ。
日本の富裕層誘致の強みは、欧米諸国とは異なる独自の文化が存在し、伝統とモダンのコントラストや、清潔さと礼儀作法などといった生活文化についても海外富裕層の関心が高いと考えられる。また、ニセコや瀬戸内など誘致が進みつつある地域もあり、スキーや農泊、宿坊体験、流氷体験など人気を集める体験コンテンツも生まれている。
しかし、課題は少なくない。観光庁は主に5点を挙げている。第1は旅行コンテンツのさらなる開発、第2はフレキシブルな特別対応だ。フレキシブルな対応とは、貸し切りや時間外対応などが可能なコンテンツの提供や、プライベートジェットやヘリコプターチャーターの受け入れ体制、地方での高級車手配、ハラールやグルテンフリーなど多様な食事制限への対応環境の拡充を指している。第3は富裕層に対応できる知識や語学力を持つ案内者の育成、第4は富裕層を扱うコンシェルジュやランドオペレーターの不足と育成だ。
また、喫緊の課題と考えられているのが5点目の富裕層向け宿泊施設の不足だ。
【続きは週刊トラベルジャーナル20年12月14日号で】[1]
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