eスポーツ界のパイオニアが語るeスポーツ

2020.12.07 00:00

近畿日本ツーリストコーポレートビジネスは10月14日、eスポーツを活用した地域誘客イベント創出のためのオンラインセミナーを自治体・関連企業向けに開催した。第1部では日本のeスポーツ界のパイオニアでもあるRIZeST(ライゼスト)の古澤明仁代表取締役が講演を行った。

 eスポーツとは、コンピューターゲームやビデオゲームを、対戦スポーツ競技として捉える際の名称です。コンピューターゲームというと、一部のマニアが支えるニッチでマイナーな世界と考えられがちですが、実はゲーム産業は世界で最も大きな娯楽産業なのです。音楽は皆が日常的に楽しんでいますし、映画は代表的なエンターテインメント分野ですが、その産業規模は音楽は191億ドル、映画は968億ドルです。それに対してゲーム産業は1379億ドル、約14兆円以上に達しています。現時点ですでに音楽や映画をはるかに上回る巨大な産業となっています。

 eスポーツ市場は急成長中で、17年に6.3億ドルだった市場規模は19年には10.9億ドルに達し、年平均成長率は実に22.3%。さらに22年には17.9億ドルまで拡大する見込みです。

 ファンの数は6.4億人。サッカーの35億人やバスケットの22億人にはかないませんが、5億人の野球や4.1億人のアメリカンフットボールをすでに上回ります。競技人口は明確な数字はありませんが、バスケットの4.5億人より少ないもののサッカーの2.6億人より多いと見積もられています。このような数字を見るとeスポーツはメジャー街道まっしぐらといえます。

 規模だけではありません。eスポーツは性別問わず若年層に好まれ、自らプレイを行い、プロシーンも追いかけるコアファンの約8割が若年層で、プレイよりも観戦を楽しむライトファンの約4割が女性です。視聴・観戦がスマホやタブレット、PCで行われるのも特徴で、巨大IT企業はいずれもeスポーツの配信・視聴プラットフォームを用意しています。

25年に3250億円市場目指す

 世界ではすでにメジャーな地位にあるeスポーツですが、日本では市場規模は大きくありません。直接市場から波及領域まで合わせても18年で338億円。経済産業省はeスポーツ業界の経済効果創出を25年までに3250億円を目指すという長期目標を立てています。いずれにしてもeスポーツは世界のメジャースポーツの地位を確立しつつあり、急速に成長中で若年層の支持が熱くデジタルデバイスを通じた圧倒的なリーチがあるため、企業から先進性や卓越性、新鮮さなどのブランディングに効果的と認識されています。

 ドイツではマクドナルドが15年間も続いたドイツサッカー連盟とのスポンサー契約を解除し、eスポーツ分野への投資へシフトしています。スポーツアパレル分野でもプーマなどの大手が、eスポーツチームへのチームユニフォーム協賛だけでなく練習ウエアやファッションなども提供、選手たちを若者のライフスタイルやファッションに関するインフルエンサーと位置づけます。誰もが知るようなハイブランドもeスポーツに着目、ゲームの中でプレイヤーが着用するスキン(デジタル上の衣装)を販売している例もあります。

 今後、eスポーツは飛躍的なスピードで発展するでしょう。すでに毎日のようにプロ、アマの各種大会、興行が開催されており、eスポーツ関連の専門学校が設立され、学校の中には授業カリキュラムにeスポーツを組み込んだり部活動を始めるケースもあります。将来的にはオリンピックの競技種目化や義務教育課程への組み込みも考えられます。

 18年アジア競技大会ではeスポーツがデモンストレーション競技となり、同年に国際オリンピック委員会内にeスポーツ連絡会が設立され、21年のアジアインドア&マーシャルアーツゲームズ(タイ・バンコク)や、22年のアジア競技大会(中国・杭州)では公式メダル種目となります。オリンピックに関しては24年のパリ大会は間に合わないと思われますが、28年のロサンゼルス大会では正式種目への採用が濃厚です。

 日本でも昨年10月の「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラムで国体史上初となるeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019」が開催されました。高校eスポーツの祭典「STAGE:0」はテレビ東京と電通の共催で実施されていますが、出場高校1779校、出場チーム2158チーム、出場選手5555人と、開催わずか2年目にして「eスポーツの甲子園」といえる規模となっています。

地域のリソースを生かすことで

 eスポーツは国籍、人種、言語、宗教、性別、年齢、身体能力の壁を越え、世界で最も多くの人に楽しまれる新たなメジャースポーツジャンルです。その経済効果と社会的意義はますます大きくなっていくと考えられます。特に注目されるのは波及効果の部分。関連需要としては通信機器やゲーミングPC、ディスプレイなどはもちろん、たとえばプレイヤーが競技時に着用する発汗抑制作用や心拍測定機能が付いた専用ウエアなどへの広がりも考えられます。

 eスポーツを人々のヘルスケアや健康増進に役立てる可能性も研究され始めています。eスポーツ分野ではゲームやシステム開発者、大会の運営人材など多様な人材が求められており、若者たちの活躍の場を創出しています。

 地方創生の点でもeスポーツ施設を開設することで、練習場の提供や大会の誘致で地域活性化を図ったり、将来的にはeスポーツのベッティングを通じて地域を守るための資金を確保することも検討できます。クールジャパンの観点からも大会開催による外客誘致や観光振興、統合型リゾート(IR)の強化といったことも期待できます。

 eスポーツは万能ではなく特定のゲームタイトルで競うスタイルは万人向けともいえません。しかしできることも多くあります。集客はオフラインでもオンラインでも可能で、人を集めるだけでなく多くの人々、世界中の人々に観戦・視聴してもらうことも可能です。単にゲームの勝敗を配信するだけでなく、地域の観光やグルメ、伝統工芸の魅力を掛け合わせて配信していく工夫が今後は重要になってきます。

 地元のメディアや協賛社、制作会社といった地域のリソースを生かし、大会の運営ノウハウや人材を東京などに頼るのではなく、地域で内製化していくことでeスポーツが地域にもたらすメリットを最大化していくことが大切です。

ふるさわ・あきひと●国内初となるeスポーツ専用施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」を運営する。eスポーツシーンを牽引しその普及活動や教育分野にも力を入れるeスポーツ界の第一人者。

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