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いまこんな旅を企画したい アフターコロナへの思いを乗せて

2020年12月7日 12:00 AM

(C)iStock.com/yacobchuk

コロナ禍による移動の制約が続くなかで旅への思いを強くする人も多いことだろう。ことさら観光産業に従事する業界人にとっては、さまざまな思いが交錯しているのではないか。旅に出るのがままならないいまだからこそ、思いめぐらす旅とはどのようなものか。まずは生活者の志向の変化から。

 コロナウイルスに急襲されて明らかになったことに、現代社会では旅行や観光が人間生活の豊かさに欠くことのできない重要な一部分だということがある。この際に、コロナ共存社会で旅行や観光が担える社会的役割を前面に押し出した企画を、業界が積極的に打ち出してはどうだろうか。

 キーワードは「安心」と「解放」だ。旅行の安心は大衆旅行が成立して以来、基本的な要件として担保されてきた。事故や災害に遭うのは不運なことで、旅行に常時つきまとう不安要素ではなくなっていた。ところが感染確認者数の増大によって、安心の担保が旅行者や観光客のどのような欲求より優先されることになった。

 もう1つの解放とは日常の重苦しい空気感から解き放されたいという欲求で、いままでも旅行の基本要素として非日常性がテーマとなっていたが、コロナでさらに強く意識されることになった。

 いま、私たちは旅行に出かけたくてうずうずしても、ウイルス感染への不安が決心を鈍らせる。この不安を可能な限り払拭するのが、旅行商品企画の最も基本的な要件になった。すでに参加者数を限定し、バスやホテルの消毒を徹底する措置は多くのツアー企画の常識だ。ツアー参加者の陰性を事前確認する企画も出てきた。

 しかし、ウイルス感染を強く恐れる人は、他人と同行するツアー参加から遠ざかるのは当然で、問題はこのような人々が既存のツアー固定客層に相当数存在するとみられることだ。正確な調査はないが半数は旅行に躊躇していると考えてよい。主要ターゲットである高齢者層に多くの不安客が存在するのが問題を深刻にしている。当面の旅行企画には不安心理を解消する工夫が必要になる。

ファミリー隔離志向
 せめて安心できるのは自分の家族だろう。家族だけで安心して旅行したい。このような家族隔離旅行に今後のニーズが拡大していく。列車でもバスでもホテルでも、他人と避けあうという究極の孤立性を担保するのがこの種の旅行企画のセールスポイントだ。現状では家族旅行はこのような形式に向かっている。そうであれば、家族オンリーを強調するツアー企画が堂々と提案されてもよい。

高価格な安心
 高価格でもよいから徹底した安心が保障される旅行が発生する。ホテルの部屋は前泊客から24時間隔離されて徹底した消毒が施され、豪華な部屋食が提供され、移動には専用スペースがあてがわれる。安心がカネで買えるならと願う層には歓迎されるに違いない。現実に京都で1泊7万円以上の高級料理旅館には予約が殺到しているそうだ。

タフ意識への対応 
 一方でコロナに過剰な不安感をもたないタフな生活者意識も根を張っている。このような人々は通勤電車に乗り居酒屋で仲間と一杯やることをそれほど恐れていない。しかし旅行となると別で、コロナ以前よりはるかに抵抗がある。彼らを活気づけるのがGoToキャンペーンで、その意味で大成功と評価できる。人々は日常からの解放を求め、しかもお得な旅行機会に飛びつく。ところが彼らの志向性にあわせた旅行企画がいまだ見られないのはどうしてだろう。旅行による変調や発症に医療や保険対応を万全にした企画など、タフな意識層の心理にしっかりと寄り添う企画があってよい。

コロナ疲れから解き放たれたい

 私たちは陰鬱な空気感の下に1年近く過ごしている。「コロナ疲れ」という言葉も現れた。このときにこの閉塞感から解放されたいと欲求するのは当然だろう。いま現在、生活者の旅行トレンドは、個人の多様な趣味や嗜好を押さえて、この解放感覚がすべてのベースになっている。人間の心を解放させるパワーが旅行にはあるということを、旅行業界はもっと主張すべきだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年12月7日号で】[1]

茶谷幸治●ツーリズムプロデューサー。「南紀熊野体験博」「しまなみ海道’99」「長崎さるく博」「大阪あそ歩」などの総合プロデューサーを務め、一貫して地域・住民主体の地域活性化イベントを主導。著書に『まち歩きをしかける』(学芸出版社)ほか。

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル20年12月7日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2020/12/06/contents-61/