公共入札市場を攻める 需要ゼロ状態からの企業防衛

2020.10.19 00:00

(C)iStock.com/MichaelJay

コロナ禍で八方ふさがりの状況下、公共入札に活路を求める観光系企業が増えているようだ。公共入札市場は、国内旅行市場を上回る22兆円規模の巨大なビジネス分野でもある。観光需要ゼロ時代を生き抜くための1つの方策として、公共入札市場へのアプローチは“あり”なのかもしれない。

 新型コロナウイルス感染拡大の収束がいまだ見通せないなか、観光・旅行市場の回復も長期にわたり見込めない状況だ。とはいえ、これまで観光・旅行業界で生きてきた事業者がおいそれとは業態を転換できない。そもそも多くの業態がコロナ禍による厳しい市場環境を強いられており、業態転換できても苦難の道が続きそうだ。ならば、これまで培ってきた観光・旅行市場での経験、知見、情報、人脈、嗅覚などが生かせる分野がないものか。

 そうした候補分野の1つが公共入札市場だ。観光系企業の中には公共入札市場への関心を高めている企業もある。国が観光立国を推進するなかで国や地方公共団体等が実施する観光分野に関する公共入札も、かつてとは比べものにならないほど増えている。また、公共入札といえば大手企業寡占がイメージされるが、国は中小企業の参加を促す施策も打ち出し、門戸は開かれている。

 あらためて公共入札市場について調べて驚くのが規模の巨大さだ。18年度の市場規模(中小企業庁調べ)は、国等の契約実績が7兆8181億円、地方公共団体の実績が14兆7678億円で、合計22兆5859億円に達する。観光庁によれば同じ18年度の国内旅行市場は20.9兆円で、公共入札市場は国内旅行市場全体を上回る。

 しかも平成以降の市場規模の変化を見ると、安定的に推移している。国等を発注元とする公共入札は、1990年代終盤の約13兆円をピークに長期的には漸減傾向にあるが短期の急激な減少は見られない。2016年度以降は3年連続で契約実績が増加中だ。地方公共団体を発注元とする実績は1990年代半ばの23.5兆円をピークに漸減したが、2010年代に入り増加傾向に転じ、18年度は10年度と比べ約3兆円増えている。公共入札市場は巨大かつ安定市場ということができる。

 もちろん、観光関連事業者にとっては公共入札全体が対象市場となるわけでない。多くはいわゆる土木・建築関係を中心とする公共工事が占める。18年度の公共工事の工事高は15兆7938億円(国土交通省・建設工事施工統計)で、公共入札全体の7割ほどを占める。それでも年間百数十万件に及ぶ入札案件の中には観光関連事業者が参加できそうな案件も多く観光事業者が関われる公共入札の幅も拡大。金額の大きな案件も出ている。

 象徴的なのはGoToトラベル事業に関する運営業務。企画競争説明書によれば事務委託費は予算2294億円という巨額の企画競争となった。企画競争の結果、JATA(日本旅行業協会)を代表とするツーリズム産業共同体(JATAのほか、全国旅行業協会、日本観光振興協会、JTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズで構成)が事務を受託することになった。この競争にはエイベックスとフロンティアインターナショナルというイベント・エンターテインメント系企業の共同提案体や広告会社の新東通信、航空機チャーター専門旅行会社のJMRS、ベルトラの共同創業者らが設立したパクサヴィア合同会社も参加した。

多様な企業が参加できる一般競争入札

 そもそも公共入札とは何か。国の中央省庁や外郭団体、あるいは地方公共団体といった公的機関が、民間企業に行う業務委託を公正に行い適切な業者を選定するために行うものだ。

 公共入札の契約方式には大きく分けて3つの種類がある。一般競争入札と指名競争入札、随意契約だ。一般競争入札は官公庁の契約としては最もポピュラーで、一定の条件を満たせば基本的に企業規模や実績に関係なくどんな企業でも参加できる。指名競争入札は、官公庁があらかじめ過去の実績等をもとに複数の事業者を指名したうえで競わせるもの。随意契約は入札を行わず官公庁が任意に特定企業と契約を結ぶ形だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年10月19日号で】

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