地域の文化と観光と 認定計画から探る活性化のヒント

2020.10.12 00:00

(C)iStock.com/inarik

観光庁と文化庁の共管による文化観光推進法が5月1日に施行された。観光と文化は親和性が高いものの所管する組織や事業者間のつながりは十分とはいえず、新法でこの状況が変わることが期待される。すでに地域・関係者が一丸となって文化観光の振興を図る計画が動き始めている。

 観光と文化あるいは観光資源と文化財は、どこの国、いつの時代においても強い関係性がある。この関係性を生かせば観光と文化の双方にとってプラスを生み出すことができる。

 07年施行の観光立国推進基本法に基づき同年に初めて策定された観光立国推進基本計画では、文化観光を「日本の歴史、伝統といった文化的な要素に対する知的欲求を満たすことを目的とする観光」と定義したうえで、推進する方針を示した。その後も基本計画の改定のたびに受け継がれ、12年の計画では「文化財や歴史的風土に関する観光資源を活用した観光交流への取り組みを促進する」としている。さらに17年には、文化財を中核とした観光拠点の整備や博物館・美術館等をはじめとする文化施設の充実といった、より具体的な取り組み方針が示された。

 観光と文化の親和性が高いとはいえ、これまでは文化財の保護・保存と観光利用は相いれないものとの考えが強く、「文化か観光か」と対立的に捉えられがちだった。しかし、政府が観光立国の取り組みを強めるのにつれて状況は徐々に変化。17年には文化芸術振興基本法が改正され、基本理念の1つに「文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつ、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業その他の各関連分野における施策との有機的な連携が図られるよう配慮されねばならない」との内容が追加された。

 18年には文化審議会に博物館部会が立ち上がり、博物館の振興方策の検討を開始。観光と町づくりとの連携施策について検討しようとの提案がされた。その結果、文化観光というテーマのもとに、19年11月に文化庁と観光庁が共同で「文化施設を中心とした文化観光のあり方に関する検討会議」を発足。3回の会議を経て検討内容をとりまとめ、その内容は文化観光推進法(文化観光拠点を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律)にも反映された。

 文化観光推進法は、文化の振興を観光の振興と地域活性化につなげ、これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出するのが目的だ。この好循環が実現すれば、観光振興と文化財保護は対立概念ではなく、WIN-WINの関係性を持つことができるというわけだ。

狙いは連携強化とインバウンド

 インバウンドの拡大を中心に据える国の観光戦略上は、文化観光を推進すれば、訪日外国人旅行者の消費スタイルがモノ消費からコト消費にシフトする状況への対応にもつながり、訪日旅行需要を全国に分散する効果も期待される。

 このような効果を実現するため、新法では、主務大臣が定める基本方針に基づく拠点計画(文化施設が作成)と地域計画(自治体が組織する協議会が作成)を認定し、その実現に向けた取り組みを後押ししていくとしている。基本方針として国土交通相と文部科学相の連名で示された目標は、文化観光拠点施設、文化観光を推進する事業者、地方公共団体との連携体制が構築されることや、拠点施設と地域で国内外から来訪者が増加すること。特に海外からの来訪者に関して今後10年間で現在の2倍程度まで増加する目標がうたわれている。博物館や美術館など拠点を中心に、これまではつながりが弱かった関係組織と事業者が官民一体となって連携することで、インバウンドの大幅増を図る未来図が示されている格好だ。

 また、文化観光の拠点となる施設が、国内外の幅広い来訪者に対してわかりやすい解説・紹介を実施すること、ITを活用したVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を含む解説・紹介にも取り組むこと、多言語化対応の強化などを求めている。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年10月12日号で】

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