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フランス人とマスク

2020年10月12日 12:00 AM

 欧州主要国はこの春、新型コロナウイルスの一定の沈静を見て都市封鎖を含む規制の一部を解除したが、最近、再発の動きが顕著で対応に苦慮している。

 フランスでは9月の新学期を目前に、首相が8月27日、記者会見を開き危機感を強く表明した。この時点で24時間当たり全土の新規感染者は6111人(5月の規制解除以来最大で、翌28日は7379人)であり、死者計は30576人であった。

 首相は新たに19県を加えた計21県をレッドゾーンとしてマスクの着用強化を指示した。特に感染の目立つのはパリ、マルセイユ、ニースなど大都市である。パリはすでに公共交通機関、密閉空間、シャンゼリゼなど特定街区でのマスク着用を定めていたが、8月28日からはパリ全街区で、歩行者、バイク、スクーターなど2輪、すべてにマスクが義務化された。対象外は自動車とトラック。議論のあったサイクリングとジョギングは最後に適用除外とされた。さらに、9月1日からはすべての中学校、高校(休憩時間を含め)および官庁、企業内でもマスク着用が義務となった。

 なお、パリのカフェ・レストランでの規制はこれまでどおりだが、座って飲食時以外は、トイレやカウンターへ立つ時もマスク着用という厳しさである。パリ警視庁も監視見回りを強化し、マスクなしの罰金は135ユーロ。一方、PCR検査は現在週83万件実施を9月に100万件まで増やすという。

 感染拡大の原因の1つは、やはり国民の夏のリゾートへのバカンスの移動や家族の交流であるとされる。フランス旅行業協会の6月の調査でも、国民の59%が夏のバカンスを計画しており、テレビでも閑散としたパリをよそに、海浜リゾートで若い人が大勢密着してマスクなしで踊っている光景も映しだされた。コロナ発生以来、国としても国内旅行を強く勧めており、テレビでも国内観光地を熱心に宣伝していた。元々フランスは国内バカンスの比率が高いといわれる。

 首相は会見で、最悪の事態への準備はしているが、前回のようなロックダウンはなんとか避けたいとの意向を強調しており、相当な覚悟の背水の陣という印象である。

 欧州の人々はマスク着用の習慣があまりないと理解しているが、8月の業界紙エコーツーリスティークが航空機内でのマスクが原因の争いの事例を伝えている。マスクを拒み、乗務員ともめて緊急着陸で降ろされた乗客もあり、マスクをめぐり他の乗客と口論や小競り合いになることもある。それほどのマスクへの抵抗感はなぜだろうか。 

 8月に行われたハリスインタラクティブの「フランス人とマスク調査」の18歳以上1504人を対象としたアンケートでは、81%は必要とされる時は必ず付けるという結果である。断固としてマスクを拒否するのは1%。マスクは付けるが時には外す人が14%いて、理由は呼吸が苦しい、暑い、効用があるか疑わしい、見かけが悪いなどだ。ただし、93%の人は鼻の下やあごの下に付けたり、同じマスクを何日も使い続けたり適切な取り扱いをしていないと報告されている。

 政府のマスク効果への期待は高く、マスクがフランス人の日常生活で重要になったことは確かだ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。