2020年9月14日 8:00 AM
コロナ禍は収まる様子が一向に見えない。隣国の韓国でも、いったん収束したかにみえたコロナの感染者数が8月以降再び急増し始めた。いまだ訪日ツーリズム市場復活の時期など五里霧中の状況である。こうした状況下、当然のことながら国内の各自治体ではインバウンド振興予算を大幅にカットし、プロモーション予算を切り詰めている。
今年度いったん観光協会やDMOに交付した観光事業予算を返納させ、喫緊のコロナ災禍対策予算に振り替える自治体の例も耳にする。「インバウンド振興どころでない。目先の窮状を何とかしてくれ」という悲痛な声を上げる地元の事業者救済へと、公共系組織が選択と集中を迫られるのも致し方あるまい。
一方、99.9%のインバウンド需要が消失するなかでも、一部の意欲的な自治体やDMOは中長期的視点に立ち、訪日振興予算を削らずに頑張っている例も少なくない。実際、世界的にツーリズム系メディアは広告需要不足により、SNSやウェブの広告配信単価はずいぶん割安になり、かなりリーズナブルなコストで、いままでにないボリュームで潜在的なファンリストを手にする自治体やDMOも多い。各国政府の自粛要請により、国外はもちろん、市中への不要不急の外出を制限される世界中の人々は、ネット上の魅力的な情報に以前にもまして飢えているのだ。
ただし、コロナ禍がしっかり落ち着く時期など、世界保健機関(WHO)含め、どんな感染症の第1級の専門家でさえわからない。冒頭で述べたとおり、出口の時期、すなわち訪日観光復活の時期など誰にもわからないのだ。それゆえ、こうした状況下で費用対効果の「効果」が明確に示せないなか、いつまでも訪日プロモーション費用にまとまった予算をつぎ込み続けるわけにはいかないのも実態だ。ではどうするのか。
先日、クロスボーダーマーケティング分野における国内最大手のBEENOSグループ幹部に興味深い話を聞いた。「傘下のBUYEE社では、越境ECの新規会員数の伸びが前年同期比164%。越境ECの流通額推移をみても131%と成長している。ヒトのインバウンドはほぼ消失しているがモノは大幅に伸びている」。一瞬驚いたが、冷静に考えればある意味当然だろう。
各国が防疫のため、ヒトの出入国を大幅に制限するなか、モノは国境を超えて動いている。日本に興味を持つ世界中の人々は、コロナ禍以前にも増して日本のお酒や陶磁器、骨董品などを個人輸入してお取り寄せし、ステイホームで楽しんでいる。
私は幹部の話を聞きながら、心の中で「あっ」と叫んでいた。「そうだ、ここにこそ訪日旅行再興に向けた出口戦略のヒントがある」。いつ戻ってくるかわからない潜在的顧客候補に広告宣伝を続けても、地域へとリターンしてくるおカネは足元ではゼロだ。
ところが越境EC戦略は違う。上手にマーケティングできれば、1粒で2度美味しいプロモーション活動となる。投下した広告費用は、(モノが売れれば)瞬時に回収できる。同時にそのモノに関わる地域のストーリー(作り手の物語)は、地元への近未来の訪日観光の潜在客を創り出す。まさに一石二鳥の戦略となる。
ただし、課題も少なくない。かつて越境EC市場で売れていたものは化粧品などのナショナルブランドの商品がメインで、購買の主要動機は大きな内外価格差にあった。これからはローカル(ご当地)のオンリーワン商品をストーリーと共に世界に訴求していかねばならない。難易度は決して低くない。しかしチャレンジする価値は大いにある。
中村好明●日本インバウンド連合会(JIF)理事長。1963年生まれ。ドン・キホーテ(現PPIHグループ)傘下のジャパンインバウンドソリューションズ社長を経て、現在JIF理事長として官民のインバウンド振興支援に従事。ハリウッド大学大学院客員教授、全国免税店協会副会長。
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