2020年9月14日 12:00 AM
コロナとツーリズムについてはツーリズム以外のさまざまなメディアも取り上げているので、いわば第三者的意見としていくつかご紹介したい。
ワシントンポストはホームページでリベンジトラベル(逆襲する旅行)という挑発的なタイトルの記事を載せている。2万人のインスタグラムフォロワーを持つ高級旅行代理店の経営者によれば、多くのフォロワーが来年にはより長い旅行に行くことを計画、早く行きたくてじっとしていられないそうだ。同様の傾向があちこちで見られ、それを指してリベンジトラベルという言葉が使われるようになった。
中国人の国内旅行志向は感染ピーク時の6割増になっている。米国市場も同じような状況で、近場を中心とした国内旅行が拡大し、その結果貸別荘のような民泊やRV車レンタルなどが増えている。先行きは明るいようにも見える。
ワシントンポストの論調に比べCNNのサイトの記事はより厳しい。コロナが猛威を振るう前、世界中の観光地、とりわけ中国を中心にマーケットが急拡大している東南アジアが直面していたオーバーツーリズムの問題を取り上げている。その勢いはとてつもなく、環境活動家だけでなく一般市民や地域政府までツーリズムへの疑念を表明する事態が生じていた。コロナ襲来で状況は一変。例えばカンボジアはGDPの3割がツーリズムから生み出され、一夜にしてゼロ近くまで落ち込んだ。PATA(太平洋アジア観光協会)はアジア太平洋地域のコロナ関連の損失は4兆円近くで回復が急務としている。
フロリダを拠点とするワールドポリティクスレビュー(WPR)は「コロナはオーバーツーリズムの終焉か?」という記事を7月末に掲載した。
ツーリズムは国家間の相互理解を通じてより平和で公正な世界を後押しする機能があるという理論がある。21世紀初頭には20年の国際旅行者数が10億人を超えると予測されたが、WTTCによれば19年にすでに15億人を超えた。理論が正しければ世界はより良い場所に向かっているはずだが、世界の潮流はポピュリズム、白人至上主義、排外主義といったネガティブな現象が多くの民主主義国で勢力を伸ばしている。さらに気候変動や地球温暖化が進み、地政学的な争いもなくならない。
このため、WPRは現状ではツーリズムの伸びが、そうした機能を果たしているとはいえないとしている。それどころか、バルセロナなどでみられる来訪者への拒否運動が示唆するのは、ツーリズムが相互理解の促進でなく、受け入れ側住民の旅行者に対する不満や怒りを増幅させていると思わざるを得ないという。特にここ数年の航空料金低下、民泊の無制限増加、巨大クルーズ船導入、SNSの影響などにより世界中のあらゆる場所で受け入れ側のキャパシティーを超えた旅行者が押し寄せるオーバーツーリズムの問題がみられるようになった。
いま、経済への打撃を緩和するため多くの国々が日本のGoToのような政策を推進し、ディズニーなどのアトラクション施設も再開しようとしている。しかし単純にコロナ以前の状況再現でなく、民主党のバイデン候補ではないがビルドバックベター(より良い復興)を目指すべきというのがWPRや恐らくCNNの主張で、ツーリズムに関わる1人として重い課題を与えられた気分である。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
Copyright © TRAVEL JOURNAL, INC. ALL RIGHTS RESERVED.