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感応力と決断力

2020年8月31日 8:00 AM

 まったく違う文化圏の橋渡し的な仕事をしていていつも感じることがある。それは感応力の差というものだ。さまざまな場面で日常、そしてビジネスで経験する人間が持つ感応力は、いまのような時代には大きな変革力になりうるし、その感度が低いと逆に衰退の原因にもなる。

 コロナが世界中で勃発した2月、ほとんど時をおかず社長を交代させ創業者にもかかわらず自ら身を引いた欧州の友人もいれば、なんら有効な手を打てずにいるのにずっとトップのいすにしがみつく者もいる。なぜこのような違いが生まれるのか興味深く思い、分析してみたところ、どうやら人間の行動には3つの要素があるのではないかという結論に至った。それは1に感応力、2に判断力、そして3つ目が実行力だ。

 まず感応力とは、ものごとの変化を感じてそれに応じる力だ。勘の良さといってもいいかもしれない(勘応力)。この感応力がないことには、いくら優秀な頭脳があってもインプットが十分にない状態なので、実力が発揮されることはない。動物でいう触覚や五感、航空機でいえばレーダーにあたる部分だ。

 次に判断力。これはインプットされた情報をもとに、現状を分析、将来を予測。違う行動をとった際、その結果いつ何が起こりえるか、そのリスクとリターン(長所短所)の大きさ、震度(マグニチュード)を冷静に判断する力である。人間はいいことはずっと続き、悪いことはすぐ消えてなくなるという願望(妄想)を持つ。この冷静な分析が特に経営者には強く求められる。

 最後に実行力。これは行動力といってもよい。いくらすばらしい判断ができても、それを実際の行動、つまり実行にうつせなければ元も子もない。宝の持ち腐れである。

 下手な鉄砲という例えがあるが、これは感応力が悪く、また判断力もない、そんな人でも数多く打ち手を出していればどれかは的に当たるという考えだ。まあ、何も実行できないよりはましだが、経営者がこれをやるというのもいかがなものかと思う。

 その逆に、情報収集や判断に時間をかけすぎて行動が致命的に遅くなるケース。つまり石橋を叩いての例えの場合である。4月頃にリアルな行動制限が世界的に強かった際、いちはやくバーチャルツアーに挑戦した企業があった。制限解除がとれて、6月からはそのブームはすぐ下火になったが、今頃になってそれをにぎにぎしく販売開始の発表をしている会社もあり、実に残念な印象を受ける。

 現在の世の中は1カ月が10年前の1年に相当する超スピード時代だ。何を、どう判断して、いつ実行したのか。結果はどうだったのか。これはマーケットが答えを出てくれる。自分ではない。そのことがわからない人は、いつまでも上述のような残念な失敗を繰り返すことになる。

 コロナ前にはマスクなど欧州ではまず店でも街角でも見ることはなかった。が、最近はどこでもみな当たり前に着けている。うっかり着けてないでスーパーに入ろうものなら、すぐに追い返される始末だし、交通機関でもマスクチェッカーがいて各車両を見回りに来る。欧州は冷房がない車両が多く、夏は苦しくて少しマスクをずらしているだけでもすぐに怒られる。

 状況が変わればあんなに変わらない(変われない)欧米人でも変わる時代。日本人にそれができないわけがない。あとは今日何人感染者が出たかという些細なことよりわれわれはいまどこに向かっているのか、これでいいのかという大局を見れる感応力と即実行する力、これがとても重要ではないかと思う日々である。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。