6000万人目標を目指すのか アフターコロナの観光立国論

2020.08.17 00:00

政府は2030年6000万人目標達成に引き続き取り組むというが…
(C)iStock.com/martin-dm

コロナの渦中に開かれた観光戦略実行推進会議で菅義偉官房長官はあらためて、30年に訪日外国人を6000万人とする政府目標を目指す考えを示した。すでに20年4000万人の目標は不可能となり、昨年は訪日客急増によるオーバーツーリズム問題も表面化した。それでもわれわれは訪日外客6000万人を目指していくべきなのだろうか。

 赤羽一嘉国土交通相は6月19日午前に行われた会見で、3日前に閣議決定した観光白書(2020年版)の中に訪日客4000万人の目標が記載されなかったことについて質問され、「16年に『明日の日本を支える観光ビジョン』で設定した訪日観光客の目標を撤回したわけではない」と説明。続けて「訪日観光客の回復は、ある程度時間を要することが予想されるので、この期間を活用し、これまでの課題であるWi-Fi環境の整備、多言語対応、洋式トイレなど、訪日外国人旅行者の受け入れ環境整備、また、バリアフリー化・耐震化等をしっかり進めていきたい」と観光ビジョンで示した目標達成へ意欲をみせた。さすがに20年4000万人目標は誰が考えても不可能になっただけに、大臣の頭には30年6000万人の目標があったと推察される。

 同日午後に開催された観光戦略実行推進会議では、同会議議長であり政府の観光戦略の司令塔である菅官房長官が最後に発言。安倍政権発足以来、外国人旅行者数が4倍に増えて約3200万人となり、地域経済に大きく貢献する存在になったことなどを説明したうえで、「30年に外国人旅行者を6000万人とする目標を掲げているが、この目標達成に向け、私ども国を挙げて、しっかり皆さまと連携を取りながら環境をつくってまいりたいと考えている」と締めくくった。コロナ禍があろうとも30年6000万人の目標は譲らない構えだ。

 しかしながら、観光推進、インバウンド押しの勢いには陰りも見える。政府の「経済財政運営と改革の基本方針2020」、いわゆる“骨太の方針”と、そのベースとなった自民党政務調査会の「ポストコロナの経済社会に向けた成長戦略」にはそれが見て取れる。骨太の方針は、19年版では「地域産業の活性化」について真っ先に「観光の活性化」を取り上げ、「訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人、2030年に6000万人とする目標等を達成し、観光立国を実現するため、各省庁、民間、各地域が一体となって施策を実行する」との文言で始まる一項を設け、IR(統合型リゾート)の整備推進に関する方針説明で締めくくった。

 これに対し20年版では、同じように地域の躍動につながる産業・社会の活性化として「観光の活性化」が取り上げられてはいるが、「ポストコロナ時代においてもインバウンドは大きな可能性があり、2030年に6000万人とする目標等の達成に向けて、観光先進国を実現するために官民一体となって取り組む」との書き出しで始まる項目はわずか7行で終わる。ボリュームで比較すると19年版の4分の1以下だ。観光やインバウンドの存在感は薄く、全体としてトーンダウン感は否めない。

国際旅行にもパラダイムシフト

 客観的な状況も新型コロナウイルスの出現で大きく変化している。観光、インバウンド業界が躍進へのステップボードとして期待した東京オリンピック・パラリンピックは1年間の延期となってしまった。開催されても規模縮小なども予想され、観光、インバウンドに想定通りの効果が期待できるかは不明だ。コロナ禍の状況次第では中止の可能性さえある。IR事業に関しても、コロナ禍の影響で権利獲得競争からの撤退を決めた外資系IR事業者もあり、今後の見通しは不透明化している。

 コロナ禍前には訪日外国人旅行者の急増により、インバウンドビジネスが盛り上がった一方で、一部地域ではオーバーツーリズムへの懸念が日に日に高まっていた。日本を代表する観光デスティネーションである京都では特に、観光がもたらすプラス効果よりオーバーツーリズムの弊害の方が目立つようになった。京都市は旅行者への啓蒙活動やITを活用した混雑緩和策に力を入れる一方で、量から質への転換を急いでいる。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年8月17・24日号で】

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