五輪とツーリズム 最善のシナリオを描くために

2020.07.20 00:00

東京五輪開催までの新たな1年に観光・旅行業界はどう向き合うか
(C)iStock.com/SetsukoN

新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより1年間の延期を余儀なくされた東京五輪。延期による経済損失は6000億円とも2兆円近くとも試算され、観光・旅行業界も対応に追われた。21年7月23日までの新たな1年間を生かすために、あらためて五輪とツーリズムについて考える。

 20年7月に開催されるはずだった東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)は、新型ウイルスの世界的な感染拡大により1年間の開催延期が決定。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委員会)と国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックについて21年7月23日~8月8日(パラリンピックは8月25日~9月6日)とする新たな大会スケジュールを発表した。大会関連ビジネスに携わる関係者は、五輪の開催延期という史上初の事態に対処しなければならなくなった。しかも事態はなお流動的で、新型ウイルスの状況次第では中止もあり得るなか、延期と中止の両にらみで事を進めなけらばならない。

 観光・旅行業界にとって“黄金の時間”と期待された五輪開催に至る期間は、最後の1年間を想定とは異なる形で迎えることとなった。

 東京2020には巨大な経済効果が期待されていた。森記念財団都市戦略研究所は14年に東京2020の経済波及効果を試算しており、それによると訪日外国人の増加や、「気分が高揚してつい財布のヒモが緩み消費行動が拡大する」ドリーム効果を含めた経済波及効果は全国で19.4兆円と試算している。

 また17年2月にみずほフィナンシャルグループが発表した東京2020の経済効果に関するレポートでは、直接効果が約2兆円、付随効果が約28兆円の合計約30兆円に達するとされていた。

 さらに17年4月発表の東京都のオリンピック・パラリンピック準備局の試算では、大会運営や観戦者支出等の直接効果が1兆9790億円、大会関連交通インフラの整備や観光需要の拡大といったレガシー効果が12兆2397億円、合計で約14兆円の需要増加効果があるとされた。同時に示された経済波及効果(生産誘発額)は東京都で約20兆円、全国では約32兆円に達すると試算されている。

 経済波及効果の範囲の見立てや試算方法は異なるが、森記念財団の約20兆円から、みずほの約30兆円、東京都の32兆円と、新しい試算ほど金額が膨らんでおり、時間を追って開催効果への期待値が高まってきた印象だ。

 試算の中には大会開催前後の効果まで含めたものもあり、東京都試算の32兆円は五輪招致が決まった13年から大会終了10年後の30年までの18年間の経済波及効果を合計した内容だ。

 観光に関していえば、五輪開催は開催国のその後のインバウンド増加に貢献する傾向があるのは間違いない。開催決定年とその10年後(決定7年後が大会開催年)のインバウンド客数を比較した増加率は、シドニー五輪(00年)のオーストラリアでは約1.5倍に増え、アテネ五輪(04年)のギリシャも約1.3倍、北京五輪(08年)の中国に至っては約2.8倍で、ロンドン五輪(12年)の英国は開催決定3年後の08年にリーマンショックに見舞われてインバウンド客数が急減したが、五輪開催をバネに回復し、15年には10年前の1.1倍まで持ち直している。

 観光・旅行業界が五輪開催に至る期間を“黄金の時間”と呼んで期待するのも当然のことだ。

 しかし期待が大きければ、それが外れた場合のダメージも大きくなる。それでなくても新型ウイルスにより観光・旅行業界は深刻な傷を受けており、五輪開催延期が追い打ちをかけた。

次への新たなステージとして

 ホテル業界は東京2020を絶好の売り手市場とみて多くの客室を高値で販売済みだった。しかも予約即決済、キャンセル不可条件で販売したケースも多く、確定済みの売り上げも多かっただけに、延期による混乱の影響は深刻だ。キャンセル不可の契約条件を盾に返金なしの対応も考えられたが、ホテル側も宿泊予定客に配慮。多くのホテルが開催延期に伴うキャンセルを認め、4月中には通常のキャンセル規定に則って対応することを発表した。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年7月20日号で】