コロナで急伸するプライベートジェット

2020.07.20 00:00

 英フィナンシャルタイムズは新型コロナウイルスの危機で定期航空の運航停止とともにプライベートジェット(ビジネスジェット)の利用が増えていることを伝えている。感染の恐怖が追い風になっており、混雑した空港や定期航空便を避け感染リスクを減らしたいと思っている人は多い。

 航空市場調査会社ウイングエックスによると、世界のビジネスジェットの運航便数は、4月の週1万2600便から5月の最初の3週間には週1万8900便に増えた。昨年平均の週5万100便よりはるかに少ないが伸長は著しい。対照的に定期航空旅客便は4月に週8万1500便。1月の50万100便から5月最初の3週間に週7万1000便に減少した。

 ビジネスジェット運航会社は旅客のソーシャルディスタンスを可能にし、小規模ターミナル、地方空港利用の少人数を運ぶ弾力的運用、そして頻繁な除染を行うことで需要を回復した。危機前に比べ需要は特にレジャー旅行で少ないが、富裕層は健康リスクに留意し自宅か別荘に避難している。

 ウイングエックスは政府の旅行制限が徐々に緩和されるにつれて、ビジネスジェットが特に米国で立ち直り、今後12カ月でコロナ危機前の80%まで回復すると予想する。長期的にプライベートジェットは一般航空会社が残した隙間を埋め、感染リスクを避けたい旅客、旅客機の搭乗にがまんできない旅客の要求に対応する機会を増やすだろう。

 しかし庶民にはビジネスジェットに乗り換える余裕はなく、機内の狭い座席に耐える以外の選択はないが、今後、果たして航空機による旅行体験の改善は期待できるだろうか。コロナによってサービスは低下し、長時間の健康チェック、到着後の検疫があり、さらに感染予防のための座席減少などで運賃値上がりも予想される。

 ブリティッシュ・エアウェイズ、アメリカン航空、ルフトハンザ・ドイツ航空などはサービスとスタッフを削減した。エアバスは航空旅行がコロナ危機前の水準に復活するのは5年先と発表した。すなわち一般の航空会社がわれわれに快適な空の旅を提供できる日は遠くなりそうだ。

 プライベートジェット普及の世界地図を見ると、北米と南米発のフライトが欧州やロシア、アジアなどを押さえて圧倒的に多く、米大陸全体で5月17日までに4万4800フライトと世界の65%を占める。米国のエクゼクティブはプライベート機利用が特に好きだ。不況時にはコスト削減で企業の自社所有機は減少し、ビジネスジェット運航事業者機のチャーター利用が増える。それでも大西洋横断のファーストクラス運賃の約10倍のコストがかかるという。

 この業界は小規模事業者が多く、浮き沈みの激しい市場で競争も激しい。近年はコングロマリット傘下のネットジェッツ、ディレクショナル・アビエーションが米国の市場シェアを増加させている。

 新型ウイルスに触発されたサプライチェーンの現地化はプライベートジェットによるビジネス旅行復活に障害になるだろう。長期的課題としてCO2排出による環境汚染は政府によるプライベートジェット増加抑制政策(課税強化など)を拡大させていく。マクロな見方をすれば、新自由主義経済が後退し、プライベートジェットが象徴するグローバリゼーションを終わらせるかもしれない。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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