ポストコロナに向けて
2020.07.13 00:00
国内で初めてコロナによる死者が出て4カ月。3月末に第1波のピークが来たが、4月7日に緊急事態宣言が発出されて公私にわたる広範囲な自粛の結果、欧米のような事態にならず第1波を乗り切れたことは幸いであった。世界的には状況が厳しいところがあるが、ロックダウンの痛手から回復するための取り組みが開始されている。ツーリズムの世界でもポストコロナのツーリズムがどのような変貌を遂げるのか、業界としてどう向き合うべきかなどさまざまな議論がなされている。
在宅勤務やテレビ会議活用などがあり、バーチャルな世界が急速に身近なものになった結果、仮想体験経済とも呼ぶべき事象が重要になるとされる。フランスのオンラインゲーム制作会社はゲームの世界をガイドの案内付きでバーチャル体験できるサービスを始めている。そこで重要なことは消費者が単に第三者的に観察するのでなく、自分で仮想現実に参加することで自己実現を果たすような経験を提供できるかどうかである。
アリババグループでオンラインショッピングモールを運営するタオバオは、農民が自分の農作業の様子を配信することで適正価格で販売できる仕組みを提供している。アマゾンは徹底した品揃えと利便性で欧米のスタンダードとなったが、アジアでのオンライン販売は違ったものになるかもしれない。オンラインモールが昔の商店街のように売り手と買い手、また売り手同士、買い手同士が関係を構築できる仮想空間になるわけだ。旅行ビジネスではパンフレットや単純なホームページでなく、訪れることで知り合いの販売員や他の買い手と楽しい時間を過ごせる仮想スペースを提供することが重要そうだ。
現在、世界中の人々が強迫観念に追われるようにアルコールを探し手を消毒している。清潔・安全への渇望はコロナが落ち着いても人々の意識に強く残る。なぜならコロナ以前からこうした傾向は表れていた。英高級ファッションブランドのステラマッカートニーは、18年にロンドンのボンドストリートに開いた基幹店に、空気中の汚染物質や排気ガスの95%を除去する強力なエアフィルター装置を設置した。店の居心地を改善しブランドイメージを向上させる効果があると思われる。
しばらく前の本欄に日本の清潔さをうまく伝えれば特にアジアからの集客に効果的ではないかと書いたが、ポストコロナの世界では有効性が高まる可能性がある。今後の国をまたいだ観光旅行者にとっての最重要事項がデスティネーションの安心・安全になることは間違いない。このまま日本がコロナの2次、3次の波を無事乗り切れれば、安心・安全が日本のインバウンドの目玉になる。
コロナがわれわれに示した課題には重いものがある。「1万人目のアメリカ人が今日亡くなった」という書き出しで、米国のツーリズム関連サイトの社長が業界のコロナへの対応に否定的な記事を書いている。業界としてまとまって対策を検討するとかツーリズムのあり方を検証するような動きが乏しいとされる。コロナのおかげでベニスなど観光地の環境が大幅に改善したという報道も多く、感染拡大の主因の1つであることが否定できないオーバーツーリズムをどう評価し、産業としてどう対応していくのかを早急に検討する必要がある。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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