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『感染地図 歴史を変えた未知の病原体』 コロナ禍に響く著者の格言

2020年7月13日 12:00 AM

スティーヴン・ジョンソン著/矢野真千子訳/河出書房新社刊/980円+税

 新型コロナウイルスの影響でカミュの『ペスト』を再読したと言ったら、ミステリ好きの知人・友人たちに薦められたのがこちらの1冊。ミステリではないが、疫病と人間のスリリングな闘いを描いたノンフィクションだ。

 舞台は19世紀のロンドン。世界最大級の都市はコレラ禍に見舞われていた。断続的に起きていた流行だったが、1954年にソーホーで発生したコレラでは、最初の3日間で同じ地区の100人以上が死亡。短期間に地区の12%以上が死ぬという恐るべきものだった。人々が震え上がるなか、仮説を立てて疫病に挑んだ医師と牧師がいた。

 医師スノーが目を付けたのが井戸水。人口が急激に増えたロンドンの上下水道事情は悪化する一方で、病気の原因は悪臭と考えられていた時代だが、スノーは地区に詳しい副牧師とともに住民情報と感染状況を洗い出し、感染地図に落とし込んでいった。丹念な作業の末、ついに地区の井戸が感染源であると確信し、行政に働きかけ井戸ポンプの柄を撤去させる。

 ビッグデータ活用やクラスター対策を思い出させる手法がとても面白い。公衆衛生の概念はこの事件から大きく発展したそうで、途中、うんちくが長くてちょっと飽きたりもするけれど(すいません)、一気に読めた。本書の出版は2006年だが、著者は今後の世界を危険に陥れるのは未知の疫病である、と断言している。

 人の往来が激しくなった現代、新たなウイルスはいつでもどこでも発生する可能性がある。だがそれでも著者は、われわれには「スノーの地図」がある、と言う。迷信ではなく科学を信じ、異なる意見に耳を傾ければ解決策は必ず見つかる、と。面白いノンフィクションで、いまの時代に響く内容だと思う。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。