TUIは危機を乗り越えられるか?

2020.06.29 00:00

独ハノーバーのTUI本社
(C)TUI Group

 英フィナンシャルタイムズは、コロナ危機が欧州最大の旅行会社TUIを「生き残りモード」に変えたとして以下のように伝えた。昨年倒産したトーマスクックと同じ道をたどる懸念から5月中旬の株価は半分に急落。TUIによると全社員5万3000人のうち、顧客担当8000人の解雇などによりコストを3分の1に減らし、固定費に必要なキャッシュフローを危機前の月間14億ユーロから2.5億~3億ユーロに軽減する。それでも旅行を取り消した顧客の約半数がバウチャーでない返金を求め、その額が21年予約分の返金を含め毎月2.5億~3億ユーロにのぼると発表した。

 3月にTUIは多くの航空会社同様に政府に公的支援を要請し、ドイツ国立銀行とコロナ危機に生き残るための18億ユーロ融資で合意した。また、ハパックロイド・クルーズの株式を共同事業者のロイヤル・カリビアン・クルーズに売って6.6億ユーロの現金を追加した。5カ月前に2機が墜落した737MAXを製造したボーイング社からは、航空便運航停止の補償として推定3億ユーロを受け取ることに合意した。

 しかし、アナリストは「この補償額では今後も大きな資本再編成リスクが続く」という。これだけでは1カ月分の流動性確保にしかならない。TUIはこの航空機の発注を取り消さず、発注済みの残り61機の受け取りを2年延期すると発表した。同社はボーイング社の欧州最大の顧客の1つで、5カ国に展開する150機のうち、15機が同型機だ。

 財務以外の心配もある。TUIより小規模の競合ツアーオペレーターは同じコロナ危機下でも健全経営を維持している。オンザビーチとジェット2(ダートグループ)は5月に株価反騰(まだ1月初めの40%前後)に先駆け株式を発行して資本調達を行ったが、TUIはまだ株主に手を付けていない。ダートは現状のまま推移すれば所有する34機を地上に置いて5年持ちこたえる現金を有する。航空機などを所有しないオンライン販売主体のオンザビーチの固定費は極端に少なく、来年まで財務の問題はない。TUIは弱体化し主要競争相手はますます強くなる。6月にTUIはブッキングドットコムとの提携を発表したが、デジタル経済への傾斜を強めることは対抗手段の1つだろう。

 5月初めに英国TUIは7月1日からツアーを再開すると発表したが、旅行者が戻ってくる保証はない。バークレイの調査によると、パッケージ顧客の62%は新型コロナウイルスが自分たちの旅行習慣に影響しないと考えるが、調査対象の半数近くが主に健康を心配し、今年中に旅行を再開する気はなく、26%は今後の旅行回数は少なくなると答えた。34%は旅行予約のために国際的なロックダウンが撤回されるのを待ち望み、半数以上は旅行を始める前にワクチン開発か感染者ゼロになることを期待する。

 ボーイング社から今後、航空機購入のクレジットを含む支援を受けられる可能性もあり、それは来年9月の借入契約更改の前にバランスシート圧力を軽減させる。しかし、これらは資金難の解決にはならない。TUIは少なくとも20億ユーロの純債務を抱え、ドイツ政府の支援で危機を切り抜けるだろうが、18億ユーロの救済融資は今後の配当方針に政治的負担をかける懸念がある。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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